岡本稔◎音楽評論家
サントゥ=マティアス・ロウヴァリ(指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
(東京エムプラス) XSIGCD877 3300円 ※Signum Uk 原盤
作品へのロウヴァリの深い共感
オーケストラの高い機能性も特筆
ロウヴァリ初のショスタコーヴィチ録音。作曲者への深い共感に基づく、細部に至るまで配慮が行き届いた演奏といえる。第6番の第1楽章における静かな悲しみを湛えた音楽は出色のもの。続く第2楽章アレグロにおける溌溂とした音楽と好対照をなす。終楽章のリズムの切れも見事だ。第9番は軽妙洒脱な表現をとり、そこに秘められた皮肉が絶妙なスパイスとなっている。こうした表現はオーケストラの高い機能性があって可能となったものであろう。
カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ、指揮)
アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
(ソニー) SICC30904 2800円
高い完成度、珠玉のようなタッチ
モダン楽器によるモーツァルト演奏の範となる一枚
ブニアティシヴィリの久々の新録音。イギリスの名門室内管弦楽団を意のままに操りながらきわめて完成度の高い演奏を聴かせる。珠玉のようなタッチの美しさは特筆に値する。第20番では作品に秘められた悲しみを慈しむような表現によって紡ぎだす。オーケストラとの駆け引きの妙も聴きものだ。第23番の明朗な世界でも彼女の細やかな情感にあふれたソロはきわめて雄弁である。モダン楽器によるモーツァルト演奏の一つの範となる演奏だろう。
伊熊よし子◎音楽評論家
樫本大進(ヴァイオリン)、エリック・ル・サージュ(ピアノ)、ほか
(ソニー)SICC30905 2970円
上質で繊細、エスプリに富む
ピアノと弦の濃密な対話が印象的
長年共演を重ねているエリック・ル・サージュと樫本大進が、息の合う仲間と作り上げたショーソンとヴィエルヌの録音。両曲ともに上質で繊細でエスプリに富むアンサンブルが横溢し、フランスのサロンで聴いているような臨場感を生み出している。とりわけピアノと弦の濃密な対話が印象的で、ショーソンの〈シシリエンヌ〉、ヴィエルヌの〈ラルゲット〉が夢見るような幻想的な響きを紡ぎ出す。ル・サージュはヴィエルヌを世に広めたいようだ。
アブデル=ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)
(M Classics)MYCL00048 3970円
シンプルにして厳格
しかも創造性に富む音を響かせる
アブデル=ラーマン・エル=バシャのピアノは余分なものが何もなく、何も足さず何も引かない。ただバッハの神髄に近づくように楽譜の裏側へと歩み寄り、シンプルで厳格で、しかも創造性に富む音を響かせる。これがバッハの基本精神なのかもしれない。《ゴルトベルク変奏曲》はストイックさの奥に審美眼が宿り、時折その微妙なペダリングと歌心にハッとさせられる。《イタリア協奏曲》は開放的で自由闊達。長く聴き込んでいきたい録音だ。
石戸谷結子◎音楽評論家
アンドレアス・シャーガー(ジークフリート)、
アニヤ・カンペ(ブリュンヒルデ)、ミカ・カレス(ハーゲン)、
ヴィオレータ・ウルマーナ(ヴァルトラウテ)、ほか
クリスティアン・ティーレマン(指揮)ベルリン国立
歌劇場管弦楽団&合唱団
ディミトリ・チェルニアコフ(演出)
(キングインターナショナル)KKC9879 6700円〈BD〉、
KKC9880〈DVD〉6700円 ※輸入盤・日本語字幕・解説付き
ベルリン国立歌劇場版《リング》の締め括り
チェルニアコフ演出は一層過激に
いよいよベルリン国立歌劇場《リング》の最終幕。チェルニアコフ演出はますます過激になり、ジークフリートは仲間とバスケットボールに興じる最中に、ハーゲンに斃(たお)される。葬送行進曲の場は、年老いたヴォータンや秘密研究所の所員やノルンまで集り、ジークフリートの死を悲しみ、感動的。この場面のティーレマンの指揮も圧倒的な迫力で胸に迫る。ブリュンヒルデの自己犠牲の場もアニヤ・カンペの迫真の歌唱が聴きどころ。最後に演出家の強いメッセージが画面に映し出される。