お薦めコンサート一覧

お薦めコンサート

水谷彰良◎音楽評論家

新国の《ナターシャ》世界初演、松本の《夏の夜の夢》などに期待

■新国立劇場 細川俊夫:歌劇《ナターシャ》世界初演

クリスティアン・レート(演出)、大野和士(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団、新国立劇場合唱団、ナターシャ:イルゼ・エーレンス、アラト:山下裕賀、メフィストの孫:クリスティアン・ミードル、ほか 

8月11日(月・祝)、13日(水) 各14:00、15日(金)18:30、17日(日)14:00
新国立劇場オペラパレス

■2025セイジ・オザワ 松本フェスティバル ブリテン:歌劇《夏の夜の夢》

ロラン・ペリー(演出・装置・衣裳)、沖澤のどか(指揮)、サイトウ・キネン・オーケストラ、OMF児童合唱団、オーベロン:ニルス・ヴァンダラー、タイターニア:シドニー・マンカソーラ、パック:フェイス・プレンダーガスト、シーシアス:ディングル・ヤンデル、ヒポリタ:クレア・プレスランド、ほか

8月17日(日) 15:00、20日(水) 17:00、24日(日) 15:00 まつもと市民芸術館 主ホール

第45回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル
〈ウィーンを繋ぐ二人の“S”~アントニオ・サリエリ没後200年、ヨハン・シュトラウス生誕200年を記念して〉

クリストフ・コンツ(指揮)、矢崎彦太郎(指揮)、群馬交響楽団、草津フェスティヴァルオーケストラ、草津アカデミー合唱団、ヴァイオリン:シュロモ・ミンツ/カリーン・アダム、ピアノ:ドリス・アダム、ほか

8月17日~30日 草津音楽の森国際コンサートホール、ほか


 多和田葉子の台本、細川俊夫作曲の《ナターシャ》は新国立劇場の委嘱作。大災害の後に旅に出たアラトと戦火を逃れたナターシャが出会い、メフィストの孫と称する男に導かれて現代の様々な地獄を旅するドラマを、日本語、ウクライナ語、ドイツ語ほかの多言語で語り歌う。自然破壊、ウクライナやガザの戦争など避けて通れぬ人道危機も視野に入れた問題作としてお薦めしたい。

 2025セイジ・オザワ松本フェスティバルの《夏の夜の夢》はシェイクスピアの喜劇を原作とするブリテンの英語歌劇。森に住む妖精、人間の貴族と職人たちの織り成す性と結婚をめぐる愉快な劇で、妖精の王オーベロンが王妃タイターニアに媚薬を塗って恋に狂わせ、お気に入りの小姓を奪おうとする。2022年リール歌劇場が初出のペリー演出は、夢幻的な舞台により高い評価を得た。15人の招聘歌手の中で注目したいのが、2022年ドミンゴ主催「オペラリア」コンクールで第2位に輝いたドイツ人カウンターテナー、ヴァンダラーの演じるオーベロンである。

 サリエリ没後200年とJ・シュトラウス生誕200年がテーマの草津夏期国際音楽祭は、2週間の会期に連日魅力的なプログラムが組まれている。筆者の一押しはサリエリの《誕生日カンタータ》日本初演を含む8月24日の合唱とオーケストラの演奏会。両作曲家の宗教曲のほか西村朗のオーボエ協奏曲《四神》第2楽章も演奏される。巨匠ミンツのヴァイオリン・リサイタル(18日)、アダムの弾くA・グリュンフェルトの華麗なピアノ曲(19日、26日)も今季の目玉だ。

山根悟郎◎コンサートプロデューサー&文筆業

夏休みは「楽器の王様」オルガンに親しんでみてはいかが?

■おかえりオルガン2025

小林淳子(オルガン)、民谷和大(トランペット)

8月9日(土)11:00、14:00 松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール〈小〉)

■トークイベント「オルガン・ビルダーの世界」 

都留裕幸(オルガン・ビルダー)

8月11日(月)14:00 サントリーホール ブルーローズ

■0さいからのパイプオルガン

小清水桃子(オルガン)、高橋明日香(リコーダー) 

ピアソラ:《アヴェ・マリア》《リベルタンゴ》/J.シュトラウス1世:《ラデツキー行進曲》、ほか

8月17日(日)11:00 桃源文化会館(山梨県南アルプス市)


 夏休みの8月には子供のためのコンサートが増える。子供たちにも音楽に触れてもらういいチャンスだからだ。しかし大人だって、この機会に、好奇心を満たすコンサートに出かけてみるというのはどうだろう。大人だから、ちょっと贅沢に自分に課金してみて、遠くのホールに足を伸ばしてみながら。例えばオルガンのある全国のホールを巡るというのもいいかもしれない。
 何千本ものパイプがみっしりと詰まった“パイプオルガン”という楽器は、その巨大さから「楽器の王様」などと表現されることもあるが、一つ一つが完全にフルオーダーメードであることはご存じだろうか。楽器の設置されるホールにあわせて設計され、製造される。もちろん大変高価だ。しかし実際にパイプオルガンのコンサートに出かける機会というのは、クラシック音楽ファンでもそう多くはないかもしれない。ホールでドーン! と大きく鎮座しているのをしばしば目にしながらも、実はその楽器の作りがどうなっているか、あるいは音が鳴る仕組みさえも、あまり詳しくは知らないという方も少なくはないのではないか。

 夏休みには、そんな近くて遠いパイプオルガンの入門編とでもいうべき公演も行われる。例えば今年は松本市音楽文化ホール、そして南アルプス市の桃源文化会館、そしてサントリーホール(これはトークイベントだけれども、その分、より楽器について深く知りうるよいチャンスだ)などだ。もちろんそれぞれ楽器の形も違えば音も違う。聴き比べればそれが良くわかる。今回挙げているのはいずれも入門的な位置づけの公演だからチケット代金も抑えめだし、おそらくオルガニストによる、楽器についての説明もあるだろう。ちょっとした旅気分も兼ねてオルガンの魅力を知る、それを今年の夏の楽しみの一つに加えてみるのもいいかもしれない。

石合 力◎朝日新聞編集委員

HIMARI、京都市響とヴィエニャフスキの名曲など演奏

■ヤン・ヴィレム・デ・フリーント指揮 京都市交響楽団第703回定期演奏会 

HIMARI(vn)*、石橋栄実(S)、中島郁子(MS)、山本康寛(T)、平野和(Bs-Br)、
京響コーラス(合唱指揮:浅井 隆仁)

ドヴォルザーク:《ロマンス》*、ヴィエニャフスキ:《ファウスト幻想曲》*、モーツァルト:《レクイエム》

8月29日(金)19:00、30日(土)14:30 京都コンサートホール

■アカデュオ リサイタル~ポーランドの名作曲家たち~ 

松岡井菜(vn)、木口雄人(p)

J.エルスネル:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番、A.タンスマン:同第2番、
I.J.パデレフスキ:同 イ短調、他

8月6日(水)19:00 ザ・フェニックスホール

■佐渡裕指揮 兵庫芸術文化センター管弦楽団 第161回定期演奏会 

並河寿美(S)、小原啓楼(T)、キュウ・ウォン・ハン(Br)、齋藤友香理(室内オーケストラ指揮)、
ブリテン「戦争レクイエム」合唱団

ブリテン:《戦争レクイエム》

8月8日(金)、9日(土)、10日(日)15:00 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール


 西日本の演奏会から紹介する。今年3月、13歳でベルリン・フィルにデビューした注目のヴァイオリニストHIMARIが京都市交響楽団の定期に登場する。2022年に米カーティス音楽院に最年少で入学し、在学しながら著名なオーケストラとの共演など国際的な活動を本格化させている。

 今回演奏するのは、ドヴォルザークとヴィエニャフスキの2曲。後者は、19世紀ポーランド(当時はロシア領)出身のヴァイオリニスト、作曲家で、やはり13歳で演奏活動を本格的に始めた。HIMARIは、ベルリン・フィルとの共演でも同じ作曲家のヴァイオリン協奏曲第1番を取り上げた。超絶技巧と高い音楽性が求められる作品の演奏を通じて彼女の魅力を味わいたい。指揮は、ヴァイオリニストとしての経歴も持つオランダ出身のデ・フリーント。後半では、モーツァルト《レクイエム》を演奏する。

 若手ヴァイオリニストでは、ウィーン国立音大に在籍中で、2023年の第2回シマノフスキ国際コンクール優勝の松岡井菜(せいな)にも注目したい。ハチャトゥリアン国際コンクール2位のピアニスト木口雄人と組むAka Duo(アカデュオ)でもポーランド音楽国際コンクールの室内楽部門1位を受賞。ソロと室内楽の両輪で活躍する。今回はそのデュオで、シマノフスキやルトスワフスキなどポーランドの名作曲家6人の作品を取り上げる。

 ほぼ完売だが、佐渡裕が終戦80年に合わせて《戦争レクイエム》を演奏する。62年の初演時には、英独の独唱者で「和解」のメッセージを伝えた。並河寿美、小原啓楼(おはらけいろう)と韓国出身のキュウ・ウォン・ハンがその役割を担う。

清宮美稚子◎本誌編集

ショスタコーヴィチの命日に荒井英治が名フィルとヴァイオリン協奏曲2曲

■高関健指揮 名古屋フィルハーモニー交響楽団 スペシャル・クワトロⅡ
〈没後50年記念 ショスタコーヴィチ・メモリアル〉

荒井英治(vn) 

ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第2番、第1番、シチェドリン:《ロシア写真集》より第2曲「モスクワ中のゴキブリ」・第3曲「スターリン・カクテル」[日本初演]

8月9日(土)16:00 愛知県芸術劇場コンサートホール

■進藤実優 ピアノリサイタル〈オールショパンプログラム〉

ショパン:24の前奏曲、ソナタ第2番《葬送》、ポロネーズ《英雄》、他

8月16日(土)13:30 浜離宮朝日ホール
〔9月6日(土)13:30より、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール(小)でも同演目のリサイタルあり〕

■第51回木曽音楽祭 フェスティヴァルコンサートⅠ

ビゼー(岡本正之編):カルメン組曲(管楽合奏版)、
ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲 、ブラームス:弦楽六重奏曲第1番

8月29日(金)18:00 木曽文化公園文化ホール
(日程・プログラム・出演者など、音楽祭全体については https://kiso-musicfes.com 参照)


 終戦80年の夏だが、8月9日はショスタコーヴィチの命日でもある。この日に2曲のヴァイオリン協奏曲を一挙演奏という重量級公演がある。ソリストは、名古屋フィル首席客演コンサートマスターで、ショスタコーヴィチやシマノフスキ、リゲティなど多くの協奏曲を手がけてきた荒井英治。協奏曲の間に挟まれたシチェドリンの2曲も、生で聴く機会は珍しい。意欲的なプログラムをさばく高関健のタクトにも期待したい。

 7月から8月にかけて、10月のショパンコンクール第一次予選に出場するピアニストたちのリサイタルがいくつか行われる。もちろんオールショパンプログラム。6人が出場という快挙の日本人女性陣の中でも、前回19歳でセミファイナリストの実績を持ち、2度目の挑戦となる進藤に注目したい。さらに、最年少15歳で予備予選を突破した中島結里愛のリサイタルも行われる(7月26日13:00、かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホール)。

 夏休みは、親子で楽しむコンサートや各地での音楽祭が盛んだ。初めての「愛知4大オーケストラ・フェスティヴァル」でのブラームス交響曲全曲演奏(8月31日13:00、愛知県芸術劇場)も話題だが、ここでは第51回を数える木曽音楽祭を紹介したい。8月28日の前夜祭に続いて、29日から31日まで、冒頭に掲げた公演含め3公演が予定されている。個々の演目の奏者は発表されていないが、音楽祭参加者は名手揃いで超豪華だ。音楽祭のディレクターは長年務めてきた山本正治・山崎伸子から、第50回をもって岡本正之・白井圭・村上淳一郎に引き継がれた。その最初の年の充実したプログラムに期待は高まる。


その他のコンサート情報

古畑祥子 ピアノ・リサイタル

7月19日 14:00 サントリーホールブルーローズ
7月26日 14:00 兵庫県立芸樹文化センター小ホール

ショパン:ノクターン嬰ハ短調《遺作》、《英雄ポロネーズ》、シューマン:《交響的練習曲》ほか

問い合わせ:SF Music Promotion 080-1264-1046