岡本稔◎音楽評論家
ファビオ・ルイージ(指揮)
NHK交響楽団
(オクタヴィア) OVCL-00868 3850円
作曲者の創造力溢れる第一稿を刺激的に展開
イタリア的な歌を想わせる部分も
NHK交響楽団が第8番の1887年、初稿(ノーヴァク版)を演奏するのは初めて。近年では、1890年の第2稿(ノーヴァク版)に基づくのが一般的だが、この演奏を聴いて、ルイージが単なる興味本位で初稿を使用したのではないことを実感した。ブルックナーの溢れんばかりの創造力がいわば生の形で示され、ある意味で現代の音楽にも通じるような刺激的な音楽が展開されている。また、イタリア的な歌を想わせる部分があったのも新発見だ。
ラハフ・シャニ(指揮)
ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
(ワーナークラシックス) WPCS-13876 3300円
オーケストラの幻想的な響き
シャニが鮮やかに描くメンデルスゾーンの世界
なによりオーケストラの美しい響きに魅了される。淡いロマン性を湛えたメンデルスゾーンの音楽にぴったりで、弦楽器の柔らかな音色に管楽器が和し、幻想的な味わいを醸し出していく。この作曲家の音楽の世界を鮮やかに描出するシャニの力量には敬服させられる。交響曲における全体の構築も手堅い。序曲《静かな海と楽しい航海》における描写表現にも卓越したものがある。また、3つの無言歌では、編曲者としての手腕も発揮している。
伊熊よし子◎音楽評論家
●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第1番、
第8番《悲愴》、第31番、幻想曲 op.77
伊藤恵(ピアノ)
(フォンテック)FOCD9916 3300円
作曲家の美しくロマンあふれる作風に寄り添う
伊藤恵のベートーヴェン・プロジェクト第3弾はピアノ・ソナタ第31番、第1番、第8番《悲愴》と幻想曲(op.77)という構成。各々の時代を代表する作品が選ばれ、作曲技法の変遷と内容の充実が理解できる。私は伊藤恵のナマの演奏を聴くと涙が止まらなくなることが多いが、ここでも《悲愴》の第2楽章で胸が熱くなった。ベートーヴェンの美しくロマンあふれる作風に寄り添う伊藤恵の深々としたピアニズムに、感情が抑えきれない。
石戸谷結子◎音楽評論家
オルガ・クルチンスカ(ナターシャ)、
アンドレイ・ジリホフスキー(アンドレイ)、
アルセン・ソゴモニャン(ピエール)、ほか
ウラディーミル・ユロフスキー(指揮)
バイエルン州立歌劇場管弦楽団&合唱団
ドミトリー・チェルニアコフ(演出・美術)
(ナクソス)NYDX50408 6050円
※BD、輸入盤国内仕様、日本語字幕・解説付き
文豪の傑作に大胆な設定を施した演出
原作はトルストイの小説。60人を超える登場人物に軍隊や群衆など数百人が舞台に載る超大作。この映像も4時間を超えるが、これでも数カ所カットがある。ロシア出身のチェルニアコフは、全ての場面をシャンデリア輝くモスクワ労働組合会館を舞台に、そこに寝泊まりする難民(?)たちがドラマを演じ始めるという設定を作りあげた。アンドレイもナターシャもピエールも普段着。ユロフスキーの緊迫感溢れる演奏と実力派歌手たちが、現代の不可避な苦いテーマを鋭く訴える。
マティアス・ヴィダル(プラテー)、マリー・リス(タリ―、フォリー)、
ザッカリー・ワイルダー(テスピス、メルキューレ)、ほか
ヴァランタン・トゥルネ(指揮)ラ・シャペル・アルモニーク
(ナクソス)CVS153 オープン価格
※2CD、輸入盤、CHATEAU DE VERSAILLES原盤
素晴らしい歌手陣と躍動感溢れる指揮
バロックの巨匠ラモーの最高傑作。映像やCDの録音も多く、パリ・オペラ座では長年人気の演目だった。古楽界注目の若手ヴァランタン・トゥルネが、作品が初演されたヴェルサイユ宮殿で2024年に演奏したこのディスクは、素晴らしい歌手陣と躍動感溢れる指揮で、作品を鮮烈に現代に蘇らせた。人の好い素朴な沼の精(蛙)が神々に散々に弄(もてあそ)ばれる喜劇だが、ユーモアと共にペーソスに満ちた心に残る作品。プラテー役のヴィダル、テスピス役のワイルダーと新世代の古楽系歌手が勢揃い。