岡本稔◎音楽評論家
カーチュン・ウォン(指揮) ハレ管弦楽団
(東京エムプラス)CDHLD7566JP(2CD)
オープン価格
※輸入盤、Halle原盤
ウォンが重厚に傾きすぎない表現で魅了
フィリップス改訂版の第4楽章も共感をもって演奏
カーチュン・ウォンが首席指揮者をつとめるハレ管弦楽団による、ジョン・A・フィリップスがSPCM版に基づき新たに改訂した第4楽章付きの「2021-22年SPCM版」によるブルックナーの第9番。第3楽章まではこの指揮者の歌心にあふれた重厚に傾きすぎない表現に魅了された。第4楽章についてはブルックナーの書法を研究し尽くした補筆者の仕事は評価したい。ウォンも共感をもって演奏しているが、前の3つの楽章と並べると連続性が乏しいのは否めないだろう。
秋山和慶 (指揮) 広島交響楽団
(BRAIN×TOWER RECORDS)OSBR41241/2 3000円 ※2CD
秋山和慶/広島響の歩んだ深い足跡を収録
端正かつ含蓄に富むラフマニノフ
1月に急逝した秋山和慶は、広島交響楽団に多大な貢献をした人。2004年から16年まで音楽監督、その後も終身名誉指揮者として関係を深めた。ラフマニノフは2003年の演奏旅行の際にサンクトペテルブルクで収録されたもの。この作品についてはロマン的な要素を強調した情緒に訴えかける解釈がとられがちだが、秋山の手にかかると端正な味も兼ね備えた含蓄に富む音楽になる。説得力は極めて大きい。CD2の3人の作品も秋山が得意としたもの。
伊熊よし子◎音楽評論家
Op.33 Hob.Ⅲ:40~41
キアロスクーロ四重奏団
(ナクソス)BIS2608 オープン価格 ※SACD Hybrid、BIS原盤
好評の「ロシア四重奏曲」第2弾
ロシア大公パーヴェル(のちの皇帝パーヴェル1世)に献呈された「ロシア四重奏曲」作品33の前半3曲で高い評価を得たキアロスクーロ四重奏団が、後半の3曲を録音した。モーツァルトが影響を受け、「ハイドン・セット」を書いたことでも知られ、伝統と革新が共存する作品。キアロスクーロの4人が作品の本質に迫る集中力と洞察力に満ちた演奏を繰り広げている。第2ヴァイオリンが変更しても同質の音楽性を維持し、響きは変わらない。
石戸谷結子◎音楽評論家
マシュー・ニューリン(アティス)、ジュゼッピーナ・ブリデッリ(シベール)、アナ・キンタンス(サンガリード)、アンドレアス・ヴォルフ(セレニュス)、ほか
レオナルド・ガルシア・アラルコン(指揮)カペラ・メディテラネア
ナミュール合唱団(CD)ジュネーヴ大劇場合唱団、(DVD&BD)、
アンジュラン・プレルジョカージュ、ジル・リコ(演出・振付)
(ナクソス)CVS113 オープン価格
※2CD、DVD+BD、輸入盤、Château de Versailles原盤
「王のオペラ」は、不条理で切ない愛のドラマ
ルイ14世の庇護のもとに作曲され、”王のオペラ”といわれた抒情悲劇《アティス》。2023年に録音されたCDとともに、モダン・ダンスの鬼才、アンジュラン・プレジョカージュが初めてオペラを演出した舞台(2022年ヴェルサイユ宮殿)がDVDとBDで収録されている贅沢な仕様。ガルシア・アラルコンの指揮(古楽器使用)は穏やかで繊細なニュアンスに富む。歌手たちは踊りながら、不条理で切ない極めて人間的な愛のドラマを歌いあげ、ダンサーも一緒に登場人物の心理を表現する斬新な演出。
鈴木淳史◎音楽評論家
(ドイツ語によるセリフ、2人のソプラノ、女声合唱とオーケストラを伴う版)
パブロ・エラス=カサド(指揮)
フライブルク・バロック・オーケストラ&RIAS 室内合唱団
(Harmonia Mundi France)HMM902724 オープン価格
多彩にして雄弁、まるで古楽のベルリン・フィル
見通しよいバランス、小回り効く機動力で、音色も多彩にして雄弁に響く。メンデルスゾーン演奏の第一人者となりつつあるエラス=カサド。そして、フライブルク・バロック・オーケストラは、指揮者なしだとワイルドな演奏になりがちだが、ここではまるで古楽のベルリン・フィルと言いたくなるような密度の高いアンサンブルを聴かせる。スケルツォでの鮮やかな旋律の受け渡しや、葬送行進曲のクラリネットの民族楽器的な歌い回しにも注目。