岡本稔◎音楽評論家
セルジュ・チェリビダッケ(指揮)
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(ワーナー)WPCS13872/3
5500円(2CD)
チェリビダッケの第8番解釈の完成形
細やかなニュアンスも手にとるように
新発見マスターによる初出盤。1985年4月のライヴで、同年の11月には本拠地が新設のガスタイク文化センター内のフィルハーモニーに移ったため、ヘルクレスザールでの最後の演奏会の記録となる。第8番にはいくつもの録音が存在するが、この演奏はチェリビダッケの解釈のひとつの完成形と言ってよいだろう。これを聴くと、新本拠の音響を嫌い、幾度も建物に手を加えた理由がわかる。ここでは細やかなニュアンスがまるで手に取るように聴きとれる。
上岡敏之(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
(オクタヴィア)OVCL-00872
3850円
上岡の要求に応える新日本フィル楽員の集中力
凛とした佇まいのモーツァルト
オーケストラ・ビルダーとして卓越した能力を持つ上岡敏之は、2016年から21年まで新日本フィルの音楽監督をつとめ、その能力をいかんなく発揮、オーケストラ水準を高めた。しかし、明確な主張を持つプログラミングは通好みで、興行的には大成功とは言えない部分もあった。上岡が客演する時の楽員の集中力にはすごいものがある。彼が要求する様式を尊重した音楽は、モーツァルトの名曲から凛とした佇まいを引き出すものである。
伊熊よし子◎音楽評論家
アンナ・ベッソン(トラヴェルソ)、ルイ・クレアック(ヴァイオリン)、
ロバン・ファロ(チェロ)、ジャン・ロンドー(チェンバロ&オルガン)
(NAXOS)NYCX10508 3960円
※α原盤、輸入盤国内仕様(日本語解説付き)
変幻自在で進取の気性に富んだ演奏
作品の普遍性と編曲の多様性が明らかに
フラウト・トラヴェルソ、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェンバロという構成のネヴァーマインドが生み出すバッハ《ゴルトベルク変奏曲》は、ピリオド楽器の演奏ながら変幻自在で進取の気性に富み、作品の普遍性と編曲の多様性を知らしめる。ジャン・ロンドーのソロによる同曲でも内包されていた静謐(せいひつ)と祈りの感情が全編を支配し、聴き込むほどに魂が浄化されるような感覚を抱く。装飾音や即興も控えめでアンサンブルの妙が際立つ。
石戸谷結子◎音楽評論家
ヴァネッサ・ゴイコエチェワ(トスカ)、
ピエロ・プレッティ(カヴァラドッシ)、
アレクセイ・マルコフ(スカルピア)、ほか
ダニエーレ・ガッティ(指揮)
フィレンツェ五月祭管弦楽団&合唱団
マッシモ・ポポリツィオ(演出)
(ナクソス)NYDX50396〈BD〉4950円
※DYNAMIC原盤、輸入盤国内仕様(日本語字幕・解説付き)
時代をファシズム時代に変えてクールな雰囲気
ゴイコエチェワら歌手たちが熱演
2024年6月のフィレンツェ五月祭歌劇場の公演。演出のポポリツィオはイタリアの著名な俳優。時代をファシズムの頃に変え、衣装や背景をベルトルッチの映画「暗殺の森」をイメージしたクールな雰囲気の設定にしている。歌手では、トスカ役のゴイコエチェワが演技力を駆使して妖艶な雰囲気の歌姫を熱演。プレッティ(4月の東京春祭《蝶々夫人》で、ゲレーロの代役で来日)が端正な歌唱でカヴァラドッシを演じている。ガッティの指揮がドラマチック。
鈴木淳史◎音楽評論家
●ラヴェル:ピアノ組曲《ダフニスとクロエ》、天国の美しい3羽の鳥、
ハバネラ形式の小品、ラ・ヴァルス●ホアキン・ニン:ラヴェルへのメッセージ
●シャリーノ:夜に●タンスマン:モーリス・ラヴェルへのオマージュ
●デュリユー:倒れたすべての者たちに
●モンサルバーチェ:モーリス・ラヴェルへのエレジー
●オネゲル:ラヴェルへのオマージュ ほか
ベルトラン・シャマユ(ピアノ)
(ERATO)2173260123 オープン価格
編曲で奏でられるラヴェル作品
趣向を凝らしたオマージュも
生誕150年を迎えたラヴェル。そのピアノ独奏曲をすでに全曲録音しているシャマユによる、編曲作品にラヴェルへのオマージュ作品を交えたアルバムだ。作曲者編曲のピアノ組曲版《ダフニスとクロエ》がアルバム全体にちりばめられ、そのあいだに歌曲のピアノ版や、タンスマンやモンサルバーチェによる趣向を凝らしたオマージュが響く。シャリーノの《夜に》は、《夜のガスパール》の水や光の煌(きら)めきを表現したパッセージを再構築した超難曲だ。