岡本稔◎音楽評論家

村川千秋 (指揮)
山形交響楽団
(M Classics)MYCL00070
3740円
SACD Hybrid
村川千秋生涯最後の交響曲指揮
山形響全楽員の心が一つに
2025年6月に92歳で逝去した山形交響楽団創立名誉指揮者、村川千秋の2024年8月のライヴ。生涯最後の交響曲演奏となった。東京芸術大学に学び、アメリカでストコフスキーらに師事した村川にとって、シベリウスの音楽とは直接の接点はない。しかし、フィンランドと彼が生まれ育った山形の風土には共通点があったのかもしれない。シベリウス解釈には深い格別の味わいがあった。それはここでも明らか。全楽員の心が一つになっていることも実感されよう。

高関健(指揮)
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
(BRAIN×TOWER RECORDS) OSBR41064
3520円(2CD)
オリジナルに徹底的にこだわった稿を採用
作曲家原初の構想に迫る未知の音楽体験
高関健と東京シティ・フィルによるブルックナー第4弾。2020年の演奏ではハース版を用いていたが、ここではノーヴァク版新全集版ホークショー校訂版を使用している。この版はノーヴァク版第1稿と決定的違いはないものの、より古い自筆譜を参照した徹底的にオリジナルにこだわった楽譜だという。学究肌では屈指の存在である高関は、作曲家の原初の構想に迫っている。単なる知的興味の対象ではなく、未知の音楽体験に誘ってくれる。
伊熊よし子◎音楽評論家

ティボー・ガルシア&アントワン・モリニエール(ギター)
(ワーナー)WPCS13879
3410円
SACD Hybrid Erato原盤
長年のコンビが織りなす不思議な親和性
バッハ作品の新たな魅力生み出す
15年にわたり共演を続けているティボー・ガルシアとアントワン・モリニエールが、特注で同一の木から削り出された2本のギターを使用し、バッハ《ゴルトベルク変奏曲》を録音。まるでひとりのギタリストが2段チェンバロの鍵盤で演奏しているような不思議な親和性、協調、融合が感じられ、作品の新たな魅力を生み出している。バッハはどんな楽器で演奏されてもバッハの本質を失わず、作品のすばらしさが際立つ。彼らの気概と挑戦に乾杯!!
石戸谷結子◎音楽評論家

ラファエル・ピション(指揮)
ピグマリオン(合唱、管弦楽)
ザビーヌ・ドゥヴィエル(ソプラノ)
ステファヌ・ドゥグー(バリトン)
(harmonia mundi) HMM902772F
オープン価格
※輸入盤国内仕様、日本語解説・歌詞訳・オビ付き
古楽器の響きを生かした繊細で鮮烈な演奏
クラシック界に新風を吹き込むR・ピションとピグマリオンの新譜。《ドイツ・レクイエム》はいまの流行だろうか。2025年に鈴木雅明とケント・ナガノも相次いでこの曲を録音している。ピションの指揮は、古楽器の響きを生かした,繊細で鮮烈な演奏。ピュアな音を追求し、やわらかく温かみのある音楽を奏でていく。哀しみを抱くもの、悩みを抱くものに寄り添い、慰めと希望を見いだすブラームスのヒューマニティーが伝わってくる。ソリストのドゥヴィエルとドゥグーは、さすがの深い歌唱。
鈴木淳史◎音楽評論家

ニコラス・ルバニス:ミスリルー(東地中海の伝承曲による)/ルベル:《四大元素》より第1曲〈混沌〉/グラス:エコーラス/シューベルト:魔王(ベルサネッティ編)/ハーマン:映画《サイコ》より〈プレリュード〉、〈ザ・マーダー〉/サン=サーンス:死の舞踏(ベルサネッティ編)/イ・ジス:珍島アリラン ほか
エティエンヌ・ガラ(ヴァイオリン)、デリリウム・ムジクム
(ワーナー)2173284463
オープン価格
古今東西の音楽がもつ奇異で多様な世界
「驚異の部屋」というタイトル通り、古今東西、それぞれの背景を取り去って、音楽のもつ奇異で多様な世界を垣間見せるアルバムだ。ルベルの前衛バロック作品、ポスト・クラシカル風の韓国民謡、弦楽合奏によるヒッチコックのホラー映画の音楽など、なかなか多彩。怪奇に寄った曲が多く、《魔王》や《死の舞踏》といったベタな選曲もあるが、その編曲と演奏がなかなか振るっている。戯画化し、響きを先鋭化しつつ、ポップにまとめた音楽を、腕利きたちによるアンサンブルが鮮烈なリズムで奏でてくれるのだから。