岡本稔◎音楽評論家
ストラヴィンスキー:管楽器のシンフォニーズ、「ミューズの神を率いるアポロ」
サイモン・ラトル(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ユニバーサル)TOGE-11089 3300円
音楽が持つエネルギーがありのままに表現される
2012年にライヴ収録された「春の祭典」は、ラトルがベルリン・フィルを完全に掌握していることを示す名演。曲の隅々まで完璧に彫琢が尽くされ、音楽が持つエネルギーがありのままに表現されている。この作品のベスト・チョイスのひとつであろう。07年に収録された「管楽器のシンフォニーズ」では、ベルリン・フィルの管楽器の名手たちの合奏が大きな成果を発揮。11年に収録された「ミューズの神を率いるアポロ」も優れた演奏である。
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲、ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
ユリア・フィッシャー(ヴァイオリン)
デイヴィッド・ジンマン(指揮)
チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
(ユニバーサル)UCCD-1374 2600円
フィッシャーのこだわりがドヴォルザークの豊かな歌を奏でる
ドヴォルザークの協奏曲はフィッシャーが10歳の頃から弾き続け、とりわけ愛着を持っているという作品だという。演奏にはそうした彼女の曲に対するこだわりがありのままに表れているようだ。ジンマン指揮、チューリヒ・トーンハレ管の好サポートを得て、フィッシャーはこの作曲家ならではの豊かな歌を奏でている。ブルッフの協奏曲でも余裕をもって演奏に臨み、作品がもつロマン的な世界を明らかにしている。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
東京クヮルテット
(キングインターナショナル)KKC-5283
3000円
緊密なアンサンブルを聴かせる最後のディスク
44年間にわたり(現行メンバーでは11年)、演奏を続けてきた東京クヮルテットが、活動に幕を下ろすことになった。最後のディスクは血となり肉となっているドヴォルザークとスメタナ。緊密なアンサンブル、各人の凛とした響き、緊迫感あふれる音の融合など、東京クヮルテットらしい滋味豊かな演奏が全編を覆っている。日本を飛び出し、国際舞台を視野に活動を続けた彼ら、当初からの強い意志がここでも発揮され、聴くほどに胸が熱くなる。
安田和信◎音楽評論家
ファビオ・ビオンディ(ヴィオラ・ダモーレ&指揮)
エウローパ・ガランテ 〈2006年録音〉
(ユニバーサル)TOCE-56535 1400円
即興的な味わいで魅力的な語り口を披露するビオンディ
ヴィオラ・ダモーレは17世紀末から18世紀にかけて使われていた弦楽器で、サイズはヴィオラに近いが、弓奏弦と共鳴弦を持つ点が特徴的。本盤はヴィヴァルディがこの楽器をソロに据えた協奏曲をすべて収録(全8曲)。ビオンディのソロは常ながら、即興的な味わいを多分に含みながら、聴き手を惹き付ける魅力的な語り口を披露してくれる。ソロに支えるというより、鼓舞するようなオーケストラの反応の良さも素晴らしい。
石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト
ワーグナー:歌劇「ローエングリン」から「わが愛する白鳥よ」、ほか全11曲
クラウス・フローリアン・フォークト(テノール)
ジョナサン・ノット(指揮)
バンベルク交響楽団
(ソニー)SICC-1621 2520円
叙情性と瑞々しさが際立ち、新しい英雄像を打ち出したアリア集
一方のフォークトはますます声が清澄になり、のびやかで、表現力も力強くなってきた。2人は声質が違うけれど、同じ曲を3曲歌っているので聴き比べると興味深い。「マイスタージンガー」「ローエングリン」「リエンツィ」ではフォークトの叙情性と瑞々しさがより生きる。「オランダ人」のエリックも彼の独壇場だ。ここではパルジファル、トリスタン、ジークフリートまで歌っており、新鮮で若々しい英雄像が生き生きと浮かびあがる。