岡本稔◎音楽評論家
村川千秋(指揮)
山形交響楽団
(Naxos)MYCL00045
3520円 (SACD-Hybrid)
山形交響楽団の精神的支柱、90歳の初ディスク
楽員も音楽性のすべてをささげ、深い味わい出す
山形交響楽団の創立者で2023年に90歳を迎えた村川千秋の初のディスク。2022、23年のライヴ録音。1972年の創設以来、このオーケストラの精神的支柱であった村川だけに、楽員のすべてが、彼のタクトのもと、持てる音楽性のすべてをささげていることが実感される。彼が最も得意としているシベリウスの音楽の身振りは決して大きくないが、その行間からにじみ出てくる味わいはきわめて深い。フィンランドとは一味違うものの、漂う空気感は山形ならではだ。
ユジャ・ワン(ピアノ)、
グスターボ・ドゥダメル(指揮)
ロサンジェルス・フィルハーモニック
(ユニヴァーサル)UCCG-45076 3850円 (2CD)
ラフマニノフ・イヤー最も注目のディスク
作曲家の心の襞も見事に表現、共感溢れる演奏
ラフマニノフの生誕150年を記念して、様々な企画が目白押しだったが、その中で最も注目されたのがワンによるピアノ協奏曲全曲演奏だろう。中国に生まれ、アメリカで学んだワンにとって、この曲は直接のかかわりはないように思われる。しかし、ロシアのピアニズムとは一線を画した、彼女のラフマニノフは共感に満ち溢れたもの。正確な技巧に加え、作曲家が書き込んだ心の襞のようなものも見事に表現している。ドゥダメルの指揮も巧み。
伊熊よし子◎音楽評論家
シューマン:《クライスレリアーナ》/ブラームス:9つの歌曲と歌、ほか
エレーヌ・グリモー(ピアノ)、コンスタンティン・クリンメル(バリトン)
(ユニバーサル)UCCG45083 3080円 ※DG原盤
透明感に富むピアノの美音で
愛する2大作曲家を取り上げる
エレーヌ・グリモーは17歳で初来日したときから、「私はシューマンやブラームスが好きなの」とインタビューで語っている。その彼女がこよなく愛すシューマン《クライスレリアーナ》とブラームス「3つの間奏曲 作品117」を録音。ここにブラームスの「9つの歌曲と歌」を組み合わせ、グリモーならではの透明感に富む美音を披露。コンスタンティン・クリンメルの深々とした低声がブラームスの空気を伝え、両者の滋味豊かな音の対話が心に響く。
バリオス:《森に夢見る》、《パラグアイ舞曲》第1番、
《悲しみのショーロ》《大聖堂》、ほか全21曲
ティボー・ガルシア(ギター)
(Warner)5419772617 2640円 ※ERATO原盤
哀愁ただようバリオスの音楽を
ガルシアの繊細な響きが心揺さぶる
ティボー・ガルシアが心から愛するパラグアイの伝説的なギタリスト・作曲家のアグスティン・バリオスの作品を録音。バリオスが編曲したショパン「前奏曲」、ベートーヴェン《月光ソナタ》、シューマン《トロイメライ》も収録されている。バリオスの曲は彼の魂が映し出されたもので哀愁がただよい、ガルシアの繊細な響きが心を揺さぶる。バリオス自身の《カアサパ》(1928年演奏)が収録され、貴重な演奏を聴くことができる。
石戸谷結子◎音楽評論家
《修道女アンジェリカ》)
アスミク・グリゴリアン(ラウレッタ、ジョルジェッタ、アンジェリカ)ほか
フランツ・ウェルザー=メスト(指揮)
ウィーン・フィル&ウィーン国立歌劇場合唱団ほか
クリストフ・ロイ(演出)
(キングインターナショナル)KKC9816〈BD〉6700円、KKC9817/18
〈DVD〉6700円 ※輸入盤、C-Major原盤、日本語字幕・解説付き
迫真の演技とコントロールされた歌唱で
3役を見事に演じ切ったグリゴリアン
2022年ザルツブルク音楽祭で上演された「三部作」。通常とは異なり《ジャンニ・スキッキ》《外套》《修道女アンジェリカ》の順で上演。いずれもグリゴリアンが主要な役を歌った。ロイの演出は、いずれもどこにでもありそうな「人生のひとコマ」をさりげなく現実的に描く。圧巻は最後の《修道女アンジェリカ》。グリゴリアンの迫真の演技と見事にコントロールされた歌唱で何とも感動的。ウェルザー=メストの繊細かつ鋭角的な指揮にも注目。ロイの演出もますます冴える。