岡本稔◎音楽評論家
ヨナス・カウフマン(テノール)
ジョナサン・ノット(指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ソニー)SICC-30425 2808円
テノールのカウフマンが全楽章を歌う「大地の歌」の史上初の試み
テノールが1人で全楽章を歌い切るのは史上初の試み。通常はメゾ・ソプラノまたはバリトンによって歌われる偶数楽章も担当している。聴き始めた時には奇数楽章との対比が明確でない印象もあったが、ほどなくカウフマンの卓越した表現力によって違和感はなくなり、その新鮮な体験に驚いた。最終楽章「告別」における歌唱もこの歌手の円熟を如実に反映したものといえるだろう。ノットの過度に耽美的にならない音楽づくりにも好感が持てる。
●ヴィヴァルディ:「四季」●マックス・リヒター(リコンポーズ):「四季」より“スプリング”●モルター:「田園協奏曲」から“アリア”●シューマン:「詩人の恋」から“まばゆい夏の朝に”、他
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
チリー・ゴンザレス(ピアノ)
ジャック・アモン(ピアノ)、他
チューリヒ室内管弦楽団
(ユニバーサル)UCCG-1765 3074円
ヴィヴァルディと様々な作曲家の13の小品で構成された「四季」
タイトルは「四季のために」の意。ヴィヴァルディの「四季」と様々な作曲家による13の小曲から構成するという凝った選曲が特徴的。ヴィヴァルディ作品は鮮烈な表現が聴かれ、即興的な装飾音が生き生きとした効果を発揮している。何物にもとらわれず、自由に飛翔するような音楽づくりはホープならでは。13の小曲は種々雑多な作品がこの奏者の個性で一つのまとまりを形成している。ブックレットにはそれぞれの作品に対応した写真を収める。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
小山実稚恵(ピアノ)
(ソニー)SICC-19032 3240円
新たな旅立ちに向かうような余韻を残す終幕の演奏
小山実稚恵がアルバム・デビュー30周年を迎え、さらに30枚目の記念すべき録音にJ.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」を選んだ。彼女はライナーノーツのなかで、「『クォドリベット』の第30変奏がたまらなく好きだ」と 綴 っている。その演奏は滋味豊かで不思議な感動が押し寄せてくるもの。直後にアリアが再現されて終幕を迎えるわけだが、小山実稚恵はまた新たなる旅立ちに向かうような余韻を残す演奏を行い、バッハの底力を感じさせる。
石戸谷結子◎音楽評論家
ナタリー・シュトゥッツマン(カップ、トンボ)
クロエ・ブリオ(子供)
カリーナ・ゴーヴァン(リヤ)
ロベルト・アラーニャ(アザエル)、ほか
ミッコ・フランク(指揮)
フランス放送フィル、フランス放送合唱団
(ワーナー)WPCS-13629 3780円
旬の歌手、名歌手を擁し、フランスのエスプリが香ってくる演奏
ファンタジックな子供の悪夢(?)を描いた「子供と魔法」。この演奏は、シュトゥッツマン、ドゥヴィエル、ブリオと旬の歌手や名歌手が名を連ねる豪華盤。指揮のミッコ・フランクは、最近ウィーン国立歌劇場やオランジュ音楽祭などで成功を収める注目のオペラ指揮者。ラヴェル、ドビュッシー共に生き生きと繊細に演奏している。「放蕩息子」では母役のゴーヴァンと息子役のアラーニャが素晴らしい。フランス人歌手中心の、まさにフランス的エスプリに富んだ演奏。
鈴木淳史◎音楽評論家
ジャン=クロード・ペヌティエ(ピアノ)
クリストフ・ポッペン(指揮)
フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団
(Mirare)MIR-316 オープン価格
無垢としか言いようがない透明なモーツァルト
無垢としか言いようがない透明な音色で、モーツァルトが奏でられる歓び。洗練を極め、そこに凡庸な表現欲を差し挟めることのないピアニズムだ。第21番第2楽章で伴奏のパートがふっと温かみを帯びて弾かれるなど、すみずみまで繊細な意志がさりげなく行き渡る。第24番は、モーツァルトの短調ならではのリリシズム表現のお手本というべきすべての感情が透き通った演奏だ。ポッペンの指揮は端麗だが、楽器の溶け合わせ方が実にまろやか。