岡本稔◎音楽評論家
クリスティアン・ティーレマン(指揮)ウィーン・フィル
(ソニー)SICC-30602 2860円
重厚長大な作品の特徴は彼の芸風にピッタリ
全集がいよいよ佳境に入ってきたことを実感させる充実の1枚。第5弾でリリースされた第5番は、ティーレマンが最も得意とする作品の一つ。重厚長大な作品の特徴は彼の芸風にピッタリ。鈍重になることなく、オーケストラの自発性も尊重しながら、作品のみずみずしい味わいを的確に引き出すところに円熟がはっきりと認められる。2024年にドレスデンの職を離れることが決まったが、ウィーン・フィルとは良好な関係を保ってほしい。
●ブラームス:交響曲第1、3番●シューマン:交響曲第2番
●ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
●ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」
●ラヴェル:ピアノ協奏曲、他
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(ピアノ)
セルジュ・チェリビダッケ(指揮)ロンドン交響楽団
(Prominent Classics)25065600 オープン価格(10CD)
晩年とは異なり、作品が持つエネルギーを素直に引き出す
ロンドン響はミュンヘン・フィルのポストに就く前にチェリビダッケが充実した活動を重ねた名門。1980年の両者による来日公演も記憶に深く刻み込まれている。当時の芸風は晩年とはやや印象が異なり、極度に遅いテンポはとらず、作品が持つエネルギーも素直に引き出したところが特徴的。とはいえ、響きに関するこの上なく鋭敏な感性はこの巨匠ならではのものである。78年から82年の間に行われた7つのコンサートを収録。
伊熊よし子◎音楽評論家
●ショパン:幻想曲/バラード第4番/ポロネーズ第6番《英雄》/舟歌/
ポロネーズ第7番《幻想》/マズルカ第49番(遺作)
牛田智大(ピアノ)
(ユニバ―サル)UCCY-1115 3300円
デビュー当初から磨き抜かれた繊細な美音
2022年3月、牛田智大のデビュー10周年記念リサイタル「オール・ショパン・プログラム」が東京で開催され、そのライヴが登場。このアルバムは牛田智大の10年間の歩みを映し出すとともに彼の「いま」をも描き、等身大の表現豊かな演奏が横溢している。とりわけ「幻想ポロネーズ」「舟歌」「マズルカ(遺作)」など晩年の作が掘り下げられ、表現力が深々とし、作曲家の内面をあぶり出す。デビュー当初から磨き抜かれた繊細な美音にも注目!!
石戸谷結子◎音楽評論家
アンドレアス・シャーガー(トリスタン)、
アニヤ・カンペ (イゾルデ)ほか
ダニエル・バレンボイム(指揮)ベルリン国立歌劇場管& 合唱団
ドミトリー・チェルニアコフ(演出、舞台美術)
(ナクソス)NYDX50226 4950円
※輸入盤、BelAir原盤、日本語字幕・解説付き
最先端のビジネス・オフィス背景にニュアンス豊かな演奏
バレンボイムはいま体調が思わしくなく心配だが、これは元気でパワフルな2018年の映像。緊迫感に満ちた重厚な響き、細やかな配慮が行き届いたニュアンス豊かでダイナミックな演奏。チェルニアコフの演出は、現代の最先端のビジネス・オフィスを背景に、宿命の恋に落ちた若者たちを描く。愛のクスリを飲んだとたん、2人は吹き出して大笑いする。シャーガーはエネルギッシュで陽気なトリスタンを高らかに熱唱し、カンペは気ぐらいの高い女性をしなやかに演じて見事。
サミュエル・レイミー(ドン・ジョヴァンニ)、
フェルッチョ ・フルラネット(レポレロ)ほか
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、
ウィーン・フィル &ウィーン国立歌劇場合唱団
ミヒャエル・ハンぺ(演出)
(キング・インターナショナル)KKC9742
※BD、Cmajor原盤、日本語字幕・解説付き
35年前のザルツブルクでカラヤンが最高の歌手を揃えた舞台
1987年8月のザルツブルク音楽祭の映像。かつてソニーから発売された映像をブルーレイにリニューアル。カラヤンが亡くなる2年前に上演された。序曲からデモーニッシュで力強いウィーン・フィルの響きが印象的。歌手は当時の最高峰が集められた。サミュエル・レイミー、フェルッチョ・ フルラネットの2人が特に美声で役に合っている。注目はキャスリーン・バトルのツェルリーナ。コケティッシュで可愛く優雅で、巧みな歌唱にも惹きつけられる。まさに伝説の名演だ。