岡本稔◎音楽評論家
アンドルー・マンゼ(指揮)
ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団
(キング・インター/ PENTATONE)KKC-6207 3300円
(SACDハイブリッド)
アンサンブルを磨き上げ、精緻かつ劇的な音楽
イギリスのバロック・ヴァイオリンの名手、アンドルー・マンゼは指揮者としての活躍も目覚しく、2014年からはハノーファー北ドイツ・フィルの首席指揮者のポストにある。初のベートーヴェンでは、徹底的にアンサンブルを磨き上げ、精緻かつ劇的な音楽を作り上げている。ピリオド・アプローチ的な部分はあるが、それにこだわりすぎることなく、独自のスタイルによるこの上なく新鮮な演奏を展開。オーケストラの純度の高い響きも印象的だ。
●ユスティン・ハインリヒ・クネヒト(1752~1817):自然の音楽による描写、あるいは大交響曲
ベルンハルト・フォンク(コンサートマスター)
ベルリン古楽アカデミー
(キングインターナショナルト/harmoniamundi)KKC-6206 3300円
隅々まで配慮し、現代に通じる生命力が充溢
ベルンハルト・フォンクがコンサートマスターとしてアンサンブルを率い、みずみずしいベートーヴェンを実現。楽聖が演奏したウィーンの小さな会場を研究し、楽器の編成、レイアウトまで配慮したという。隅々まで配慮の行き届いた音楽だが、現代に通じる生命力が
●ピアノ協奏曲第1番(カデンツァ:ベートーヴェン、ライネッケ&グールド)/ピアノ協奏曲第2番(ベートーヴェン、シュターフェンハーゲン&ベルッチ)/ピアノ協奏曲第3番(ベートーヴェン、リスト、ブラームス&フォーレ)、他
ジョヴァンニ・ベルッチ(ピアノ)
カスパル・ツェーンダー(指揮)
ビール・ゾロトゥルン交響楽団
(東京エムプラス)PCAL-2066 7700円(5CD)
独自の語り口を見せるベートーヴェン弾きの鬼才
1965年、ローマ生まれのピアニスト、ジョヴァンニ・ベルッチはベートーヴェン弾きとして知られる。協奏曲でもその持ち味をいかんなく発揮し、古今の名手たちのスタイルとは異なる、独自の語り口で鬼才ぶりをみせる。織り出されるさまざまなニュアンスの多彩さには驚かされる。ベートーヴェンのカデンツァを使用しているが、ライネッケ、グールド、リスト、ブラームスなどさまざまなカデンツァもあわせて収録。オーケストラの水準も高い。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
●ベートーヴェン:ディアベッリのワルツによる33の変奏曲●ディアベッリのワルツによる新しい変奏曲(2020)(レーラ・アウエルバッハ:ディアベッリカル・ワルツ/ブレット・ディーン:ルディのための変奏/細川俊夫:喪失、他)●ディアベッリのワルツによる変奏曲(1824)(フンメル/カルクブレンナー/クロイツァー、他)
ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-40103/4 3960円(2CD)
現代の作曲家11人に新たな変奏曲を委嘱
ベートーヴェンのスペシャリストとして名高いルドルフ・ブッフビンダーが、作曲家の生誕250年を記念し、46年ぶりに「ディアベッリ変奏曲」を録音。さらに画期的な企画として現代を代表する11人の作曲家に新たな変奏曲を委嘱した。ブッフビンダーは版を複数研究して作曲家の真意に近づくことをモットーとしているが、今回もその精神を存分に発揮、細部まで神経が張り巡らされている。新曲も各々が非常に個性的で1曲ずつ胸が高揚する。
●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30~32番
エリーザベト・レオンスカヤ(ピアノ)
録音:2009年
(キングインターナショナル/MDG)KKC-6204 3300円
(SACDハイブリッド)
高貴で抒情性に満ちた音色と確固たる構成力
エリーザベト・レオンスカヤもリヒテルに認められた人である。ピアノ・ファンの心に深く浸透する独特のピアニズムを披露するレオンスカヤは、近年日本でシューベルトのソナタ連続演奏を行い、その豊かな歌心と説得力のある奏法で巨匠性を示した。このベートーヴェンも「あるべきところに音がある」という必然性に富む音楽。とりわけ美しく高貴で抒情性に満ちた音色と、研究し尽くされた確固たる構成力がベートーヴェンの神髄を伝える。