岡本稔◎音楽評論家
クリスティアン・ティーレマン(指揮)
ウィーン・フィル
(ソニー・クラシカル) SICC 30705 2860円
我が道を貫く流儀で大物の風格をたたえるティーレマン
ティーレマンとウィーン・フィルによるブルックナー交響曲全集は第6弾となった。今回もライヴでの収録。毀誉褒貶を顧みず、我が道を貫く彼の流儀は真の大物指揮者の風格をたたえてきた。この名門楽団を本気にさせる数少ない指揮者の一人であることは間違いない。経験を深め、楽団の持ち味も万全に活かすことができるようになったのも近年の彼の特徴である。ブルックナーが到達した壮大かつ深遠な境地を余すところなく知らしめる。
イム・ユンチャン(ピアノ)
ホン・ソグォン(指揮)
光州交響楽団
(ユニバーサル)UCCG-1899 3080円
信じがたいほどの完成度の《皇帝》でイム・ユンチャンがCDデビュー
2022年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにおいて18歳でコンクール史上最年少優勝を果たしたユンチャンのグラモフォンへのデビュー盤。《皇帝》はこの2月の東京フィルとの共演で聴いたばかりだが、印象は全く変わらない。10代にして信じがたいほどの完成度を持ち、タッチの美しさや安定した技巧はもとより、音楽性の高さにも驚嘆させられる。作品の持ち味をありのままに引き出し、みずみずしい自らの音楽を語りだす。
伊熊よし子◎音楽評論家
ラファウ・ブレハッチ(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG45070 3080円 ※DG原盤vvv
ひとつひとつの音が磨かれ、浄化され、魂の代弁のよう
ラファウ・ブレハッチのショパンをコンクール優勝時に現地で聴いたときの衝撃は、いまだ忘れられない。みずみずしく情感あふれ、躍動感あふれるショパンは、作曲家本人が弾いているような錯覚を覚えさせた。ここに聴くショパンはひとつひとつの音が磨かれ、浄化され、魂の代弁のよう。とりわけ「舟歌」の弱音の美質が際立ち、鳥肌が立つような感覚を抱く。ブレハッチのショパンはひそやかに語り、深奥に迫り、自身のことばで音を紡ぐ。
石戸谷結子◎音楽評論家
カルロス・アルバレス(リゴレット)、リセット・オロペサ(ジルダ)、リパリット・アヴェティシャン(マントヴァ公爵)ほか
アントニオ・パッパーノ指揮コヴェント・ガーデン王立歌劇場管&合唱団
オリヴァー・ミアーズ(演出)
(ナクソス)NYDX50260 5500円
※BD、輸入盤、OPUS ARTE原盤、日本語字幕・解説付き
豪華キャストとパッパーノのドラマティックな指揮が聴きもの
2021年9月のオープニング公演。パッパーノ渾身の重厚な前奏曲が響き、舞台には暗いカラヴァッジョ絵画風シーンが出現。オリヴァー・ミアーズの演出は、作品の暗部を浮き彫りにする。マントヴァは自分に逆らう者を拷問するサディストの権力者。ジルダもリゴレットも哀れな犠牲者だ。ティツィアーノなどの絵画を有効に使い、謎めいた雰囲気作りも巧い。リゴレット役のアルバレス、ジルダのオロペサと豪華キャストが揃い、パッパーノのドラマチックな指揮が聴きもの。
鈴木淳史◎音楽評論家
●バルトーク:ヴィオラ協奏曲●ベートーヴェン:交響曲第5番
トーマス・ツェートマイアー(ヴァイオリン&指揮)、
ルース・キリウス(ヴィオラ)、ロイヤル・ノーザン・シンフォニア
(ECM)4858391 オープン価格
ツェートマイアーの魅力が詰まったプログラム
ツェートマイアーとキリウスが共演するカスケンの協奏曲は、作曲家が影響を受けたベルクの響きも聴こえ、ねっとりとした密度感がある。転じてバルトークの協奏曲はドライでポップだ。ベートーヴェンの交響曲は、トメ、ハネ、あるいは強弱といった要素の痛快なくらいの明確な描き分け。フレーズの頭から尻尾まで念入りに作り込まれ、それがしなやかな流れに乗る。まさしく、ツェートマイアーがヴァイオリンでやっていることそのまま。