岡本稔◎音楽評論家

ペトル・ポペルカ(指揮)ノルウェー放送管弦楽団
                (東京エムプラス)XLWC1258 3300円 
チェコの若手実力派ポペルカによる
自信に満ち溢れた表現
 2022年に代役として東京交響楽団を指揮して日本デビューを成功裏に終わらせたチェコの若手ペトル・ポペルカ。彼が2020年以来首席指揮者の地位にあるノルウェー放送管弦楽団を指揮した、このコンビによる事実上の初のディスク。すでにチェコ・フィルやドイツの名門に招かれている実力派らしい巧みな表現で作品の妙味を引き出している。ピリオド的な表現も取り入れながらも、軸足はモダンに置いた解釈は全体に自信に満ち溢れている。

飯森範親(指揮)日本センチュリー交響楽団
                (オクタヴィア) OVCL00824 3850円
雄弁な表現の飯森/日本センチュリー響
モダン楽器でハイドン演奏の手法を確立
飯森範親が首席指揮者をつとめる日本センチュリー交響楽団がハイドンの交響曲の全曲演奏、録音を目指すプロジェクト、当盤のリリースで21枚目を迎えた。モダン楽器でハイドンにふさわしい様式感を生み出す彼らならではの手法は、すでに確立したように感じられる。フィッシャーよりもピリオド・アプローチの適用度は控えめだが、その分、より幅広い聴衆を獲得する可能性があるだろう。隅々まで磨き抜かれた表現で雄弁な音楽を聴かせる。
伊熊よし子◎音楽評論家

バッハ:イギリス組曲第5番/モーツァルト:ピアノ・ソナタ第12番、ほか
                ミエチスラフ・ホルショフスキー(ピアノ)
                (ソニー)SICC19069/72 14300円
                ※SACD Hybrid(3枚)+BD(1枚)、RCA原盤
95歳の名ピアニストが魅せる
カザルスホールでのライヴ録音
ポーランド生まれの偉大なピアニスト、ミエチスラフ・ホルショフスキー(1892~1993)がカザルスホールのオープニングに来日して開催した2回のソロ・リサイタルがハイブリッドディスクと映像(ブルーレイディスク)で完全復刻。ビーチェ夫人の日記やインタビューも収録。「100歳のピアニスト/ホルショフスキーの奇跡」(ブルーレイディスク)も同時発売。ナマの演奏を思い出し、涙がこぼれる。音楽の世界遺産ともいうべき貴重な記録だ。
石戸谷結子◎音楽評論家

ブリン・ターフェル(ボリス)、アイン・アンガー(ピーメン)、
                ジョン・グラハム=ホール(シュイスキー)、ほか
                アントニオ・パッパーノ(指揮)
                コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団
                リチャード・ジョーンズ(演出)
                (ナクソス)NYDX50310 5500円
                ※BD、輸入盤、OPUS ARTE原盤、日本語字幕・解説付き
1869年の原点版初稿を採用
ターフェル初のボリスは適役
2016年3月、コヴェント・ガーデン歌劇場のライヴ。今となっては、興味深いロシア史を題材にしたオペラ。多くの版がある作品だが、R.ジョーンズの演出は、1869年の原典版初稿による。2時間20分ほどの映像だが、ツァーリ、ボリスの苦悩に焦点を当てたすっきりと簡素な見応えある舞台。くせ者のシュイスキーが裏で策略を巡らし、ボリスを追い詰め、死に至らせる。この時、ターフェルはボリスが初役というが、演技・歌唱共に適役。パッパーノの指揮もドラマチック。

ヨナス・カウフマン(シェニエ)、ジョルジュ・ぺテアン
                (ジェラール)、アーニャ・ハルテロス(マッダレーナ)、ほか
                マルコ・アルミリアート(指揮)
                バイエルン州立歌劇場管弦楽団&合唱団
                フィリップ・シュテルツル(演出)
                (ナクソス)NYDX50312 ※BD、輸入盤、日本語字幕・解説付き
舞台を分割して場面を重層的に
カウフマン&ハルテロスも名唱
2017年12月、バイエルン国立歌劇場ライヴ。P・シュテルツルの演出は舞台を数カットに区切り、各場所で起こる場面を同時に見せるという手法。貴族の舞踏会の下段では、虐げられた庶民が蠢(うごめ)いているなど、物語に重層性と深みを与えるが、情報が多すぎ集中できない面も。同じ舞台をミュンヘンで実際に見たが、映像は一つのカットを大写しにするので、ライヴより解りやすい。カウフマンとハルテロスのゴールデン・コンビのドラマチックな歌唱が素晴らしく、特に4幕フィナーレは感動的。