岡本稔◎音楽評論家
ベルナルト・ハイティンク(指揮)
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
(ユニバーサル)UCCD-7307 1296円
緻密かつスケール大きな演奏を繰り広げる
1986年のクリスマス・マチネーにおけるライヴで、第4番と同様に、今回が日本初リリース。ここでもハイティンクのマーラー解釈の根幹となる部分は変わりなく、オーケストラが持つ独特の音色を活かしながら緻密、かつスケールの大きな音楽を聴かせている。アダージェットの夢見るような表情にも特筆すべきものがある。ハイティンクはその後、ベルリン・フィルとこの曲を録音しているが、解釈が徹底されているという点ではこのコンセルトヘボウ管盤をとるべきだろう。
クリスティアン・ヤルヴィ(指揮)
MDR交響楽団
(ソニー) SICC-30264 2808円
多彩な音楽を歌い上げるヤルヴィの冴えた指揮
2014年のライヴ収録。クリスティアン・ヤルヴィによる「チャイコフスキー・プロジェクト」の第1弾にあたる。「雪娘」はチャイコフスキー33歳の時の作。ロシアの劇作家オストロフスキーの戯曲のために書かれた劇付随音楽。主人公、雪娘(スネグーロチカ)の悲しい恋を扱った戯曲にチャイコフスキーは極めてみずみずしい音楽をつけている。オーケストラ曲、合唱曲、舞踊、アリアなど、多彩な音楽を歌い上げるヤルヴィのタクトの
冴
えは見事というほかない。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
●モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第18番/第5番/第33番/第27番/第15番、他
アリーナ・イブラギモヴァ(ヴァイオリン)
セドリック・ティベルギアン(ピアノ)
(ハイペリオン)CDA-68091 オープン価格(2CD)
成熟味を増した響きでモーツァルト全集の第1弾
先ごろの来日公演で、息の合ったモーツァルトのヴァイオリン・ソナタを聴かせたイブラギモヴァとティベルギアンの全集第1弾がリリースされた。ふたりは作曲家の幼少時代の曲やあまり演奏されない作品にも焦点を当て、天才モーツァルトの全貌を明らかにしていく。旅先で出会った王族や貴族のために書いた作品も興味深く、全集完成が待ち遠しい。デビュー当初、お互いに惚れ込んだというふたりの音の響きがいま成熟味を増している。
●シューマン(ドビュッシー編曲):カノン形式による6つの小品(作品56から)
●ドビュッシー:白と黒で●バルトーク:2台のピアノと打楽器のためのソナタSz110
マルタ・アルゲリッチ、
ダニエル・バレンボイム(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-1735 2808円
個性的な2人の4手が一体となった音の融合
2015年7月26日、ブエノスアイレスのコロン劇場でアルゲリッチとバレンボイムが共演した歴史的な一夜のライヴが登場した。アルゼンチン生まれの幼なじみのふたりは、シューマン、ドビュッシー、バルトーク(パーカッション付)というプログラムで音楽のすばらしさを伝えた。この録音は、個性的なふたりの4手が一体となった、まさに音の融合が聴きどころだ。強靭かつ軽快、躍動、抒情など幾重にも変容させる奏法に耳を澄ませたい。
石戸谷結子◎音楽評論家
●シューベルト:「秋の夜に月に寄せて」、「希望」、「別れ」、ほか全24曲
クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)
ゲロルト・フーバー(ピアノ)
(ソニー)SICC-30263 2808円
※Blu-spec CD2
シューベルトの孤独をテーマにしたもう1つの「冬の旅」
現代最高のリート歌手、ゲルハーヘルの緊密で抑制の効いた、しかも自然な歌唱の素晴らしさは言うまでもないが、プログラミングの完成度の高さに感動。これは広瀬大介氏が指摘しているように、「もう1つの冬の旅」だ。シューベルトの孤独とさすらい人としての哀しみをテーマに選んだ24曲は、曲の配列と歌い方で全く異なったシューベルトの内面が見えてくる。ゲルハーヘルにシューベルトが乗り移ったかのよう。ピアノもまさにデュオ、曲の解説も的確で充実。