岡本稔◎音楽評論家
アントニオ・パッパーノ(指揮)
ローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団
(ワーナー・クラシック) WPCS-13856 3300円
指揮者とオーケストラの緊密な共同作業の成果
イタリア的な明晰さを併せ持つブルックナー
2019年の収録だが、単独のリリースはこの国内盤が初となる。パッバーノが2005年より音楽監督をつとめたローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団との緊密な共同作業が大きく実を結んだ感のある演奏である。ドイツやオーストリアの名門オーケストラによるブルックナーのような深遠な奥行き、宗教性を感じさせる解釈とは一線を画した、ある意味でイタリア的な明晰さを併せ持つ音楽。歌に満ち、重量感にも富む。
ヴィルデ・フラング(ヴァイオリン)
トーマス・ホッペ(ピアノ)
ロビン・ティチアーティ(指揮)
ベルリン・ドイツ交響楽団
(ワーナー・クラシックス)2173240942 ※オープン価格
注目のフラング、エルガーの難曲も驚きの名演
指揮者・オケとの組み合わせも理想的
新盤を出すたびに注目を集めているフラングが、今回も驚きをもって迎えられそうなディスクをリリースした。エルガー円熟期の大作、ヴァイオリン協奏曲である。全編にロマン的な叙情を湛え、この作曲家ならではの気品を漂わせた曲は、技巧だけでは弾きこなすことができない難曲である。彼女は巨大な作品の全貌を的確に把握するとともに、旋律の隅々まで心の通った表現を見せている。共演する指揮者とオーケストラについても理想的な組み合わせだ。
伊熊よし子◎音楽評論家
●シューマン:《献呈》/シューベルト:《楽興の時》第3番/
ベートーヴェン:《エリーゼのために》/矢代秋雄:《夢の舟》/
ショパン:《即興曲》第3番/
坂本龍一:《20220322サラバンド》、ほか全22曲
河村尚子(ピアノ)
(ソニー)SICC19080 3630円
デビュー20周年を記念する小品集
自身の音楽人生が映し出される内容
河村尚子が日本デビュー20周年を記念してピアノ小品集を完成させた。選曲はこれまでの思い出が詰まった作品で構成され、プロローグとエピローグの間に多種多様な20曲が挟まれ、あたかも人生の記憶をたどるような趣を呈している。その22曲は河村尚子の音楽人生をリアルに映し出し、各曲には子ども時代のことから先生について、作品や人との出会いまでさまざまな音の記憶が凝縮している。深く熱く心に響く意義深いアルバムの誕生。
石戸谷結子◎音楽評論家
アンドレ・シュエン(アルマヴィーヴァ伯爵)、
アドリアナ・ゴンサレス(伯爵夫人)、
サビーヌ・ドゥヴィエル(スザンナ)、
クシシュトフ・ボンチク(フィガロ)、
レア・デザンドレ(ケルビーノ)、ほか
ラファエル・ピション(指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団&ウィーン国立歌劇場合唱団
マルティン・クシェイ(演出)
(キングインターナショナル)KKC9884 6700円〈BD〉、KKC9885 6700円〈DVD〉
※輸入盤、C-Major原盤、日本語解説・対訳付き
権力者と使用人の関係に焦点を当て、
旬の歌手とともに洗練された繊細な演奏
2023年ザルツブルク音楽祭。話題の古楽系指揮者、ピションが初めてウィーン・フィルを指揮。過激な演出家クシェイが、権力を振りかざす暴力的な支配者(伯爵=マフィア?)と使用人の人間関係、男女の複雑に絡み合う関係を鋭く暴露する。伯爵役のシュエン、スザンナのドゥヴィエル、伯爵夫人のゴンサレス、フィガロのボンチク、ケルビーノのデザンドレと第一線で活躍する旬の歌手をずらりと揃え、洗練された繊細な演奏。ベリソの軽妙なフォルテピアノがアクセントに。
ジョン・オズボーン(ジャン)、エリザベス・デション(フィデス)、
マネ・ガロヤン(ベルト)、マーク・エルダー(指揮)
ロンドン交響楽団&リヨン歌劇場合唱団、ほか
(キングインターナショナル)LSO0894 オープン価格
※輸入盤、LSO LIVE原盤、英語解説・英語対訳付き
大編成のオケでダイナミックに描く
色彩豊かな音楽と迫力あるドラマ
2023年、エクサンプロヴァンス音楽祭で演奏会形式上演され話題を呼んだ公演。バレエ音楽を入れると(今回は割愛)演奏だけで4時間を要する5幕の大作。ロンドン交響楽団を中核とした大編成のオケを指揮したのはエルダー。色彩豊かな音楽と迫力あるドラマが醸し出すダイナミックな演奏で大成功を収めた。主役のオズボーンが輝かしい高音を駆使してドラマチックな歌唱を繰り広げ、母役のデションも長いアリアのある難役を見事に歌いきった。