岡本稔◎音楽評論家
グスターボ・ヒメノ(指揮)
トロント交響楽団
マルク・アンドレ・アムラン(ピアノ)
ナタリエ・フォーゲット(オンド・マルトノ)
(キングインターナショナル) KKC6787
3500円 ※Harmonia Mundi 原盤
作品がもつ巨大な情報量をありのままに表現
細密画として描く「現代音楽の古典」
トロント交響楽団は小澤征爾の指揮で1967年、作曲者立会いのもとでこの作品の世界初録音を行った団体。楽団創立100周年を記念する一環として、音楽監督のヒメノのタクトで収録されたこの録音は、当作品がすっかり「現代音楽の古典」となったことを再認識させるもの。初録音にあった大きな意気込みと熱気に代えて、作品がもつ巨大な情報量をありのままに表現し、細密画として巨大な作品の全体像を描出することに成功している。
大野和士(指揮)
ブリュッセル・フィルハーモニック
(東京エムプラス) XEPRC0061
3300円 ※Evil Penguin Records原盤
傾倒する作曲家への共感の深さ示す大野
含蓄に富んだ響きのブリュッセル・フィル
大野和士が2022年に音楽監督に就任したブリュッセル・フィルハーモニックとの初録音。以前よりスクリャービンの音楽への傾倒を表明していた大野だが、録音の形で結実した感のある手応えのある一枚。2002年から2008年までベルギー国立モネ劇場の音楽監督をつとめ、ブリュッセルの音楽事情に精通した大野ならではの演奏。文化の交差点と
もいえるこの都市の楽団ならではの含蓄に富んだ響きを活かし、作曲家への共感の深さを明らかにする。
伊熊よし子◎音楽評論家
クリストフ・ルセ(チェンバロ)
(キングインターナショナル)KKC6784 3300円 ※APARTE原盤
名手ルセの《フーガの技法》
作品に新たな一石を投じる
フランスのチェンバロ奏者でバロック・オペラの指揮者でもあるクリストフ・ルセが、バッハの《フーガの技法》を完成させた。晩年のバッハの傑作と称されている作品は、自筆譜に楽器の指示が記されていないため鍵盤楽器で演奏される場合が多い。ルセは1750年以前ドイツ製(作者不詳)の楽器を自在に奏で、長年の研鑽の成果を示すべく圧倒的な存在感を放つ演奏を披露。《フーガの技法》という作品に新たな一石を投じ、研究心を喚起する。
石戸谷結子◎音楽評論家
●モーツァルト:《すみれ》《クローエに》《夕べの想い》/
R.シュトラウス:《明日!》《アモーレ》《万霊節》、ほか全24曲
サビーヌ・ドゥヴィエル(ソプラノ)、マチュー・ポルドワ(ピアノ)
(ワーナー)5419794886 オープン価格
※輸入盤、ERATO原盤、日本語解説・歌詞付き
歌姫ドゥヴィエルのリート・アルバム
澄んだ美声に相応しい選曲
オペラの舞台で大躍進を続けるドゥヴィエルが、リートのアルバムをリリースした。モーツァルトと彼を敬愛したシュトラウスの歌曲集。純真な子供に関連する曲に始まり、森や野の花など自然を題材にした曲へと、連想ゲームのように進んでいくという絶妙なプログラミング。ドイツ語曲の中に、フランス語の歌曲やコロラトゥーラの曲も入り、いずれも彼女の澄んだ美しい声に合った曲が選ばれている。《明日!》はヴァイオリンの伴奏付き。ポルドワのピアノもニュアンス豊か。
鈴木淳史◎音楽評論家
●ヨハン・シュトラウス2世:アンネン・ポルカ/皇帝円舞曲/
喜歌劇
《こうもり》序曲/ピツィカート・ポルカ/
トリッチ・トラッチ・ポルカ/雷鳴と電光/ウィーン気質/
喜歌劇《ジプシー男爵》入場行進曲/狩り/南国のバラ
セルジュ・チェリビダッケ(指揮)、シュトゥットガルト放送交響楽団
(Prominent Classics)25065623 オープン価格
優雅、シリアス、そしてシュール
チェリビダッケのヨハン・シュトラウス名演集
チェリビダッケのシュトラウスのワルツやポルカは、優雅にして、ひどくシリアスで叙情的。そしてシュールだ。《こうもり》序曲はその後にオペラ・セリアが始まってしまいそうな真剣味があり、《ピツィカート・ ポルカ》は、強弱の幅が半端なく、全休止も強烈。R.シュトラウスの交響詩を思わせる序奏の《南国のバラ》。主部に入ると、人々がわさわさ動く音が するので、実際の舞踏会での録音なのだろう。チェリで踊っていたとは!