岡本稔◎音楽評論家
ウィリアム・クリスティ(指揮) レザール・フロリサン
テオティム・ラングロワ・ド・スワルテ(ヴァイオリン)
(キングインターナショナル) KKC6754/5
4400円 (2CD) ※harmonia mundi原盤
レザール・フロリサン初のハイドン交響曲
作品がたった今生まれたかのような新鮮さ
クリスティとレザール・フロリサンにとってハイドンの交響曲は意外にも初。オラトリオのディスクで新鮮なハイドン像を提示したこのコンビは、ここでも作品がたった今生まれたような新鮮でみずみずしい音楽を聴かせている。個々の楽員のソリスティックな名技にも心奪われる。ヴァイオリン協奏曲第1番で弾き振りを披露するのはコンサートマスターのド・スワルテ。イタリア趣味のスタイルで書かれた作品の魅力をありのままに引き出す。
飯森範親(指揮)
パシフィックフィルハーモニア東京
(オクタヴィア) OVCL-00830 3850円
飯森/PPTの初録音
「伝統と革新」にふさわしいモーツァルト
2022年に東京ニューシティ管弦楽団から名称変更し、再スタートしたパシフィックフィルハーモニア東京の初録音。音楽監督飯森範親のもと、「伝統と革新」というテーマを掲げて活動している。飯森は山形交響楽団とモーツァルト交響曲全集を完成済みだが、あえてその初期交響曲を初録音に選んだのは、両者の違いを明確に示す意図があったのだろう。いずれも伝統に則ったものだが、みなぎる表現意欲は革新と呼ぶにふさわしい。
伊熊よし子◎音楽評論家
イザベル・ファウスト、アンネ・カタリーナ・シュライバー(以上ヴァイオリン)、アントワン・タメスティ(ヴィオラ)、ジャン=ギアン・ケラス(チェロ)、アレクサンドル・メルニコフ(フォルテピアノ)
(キングインターナショナル)KKC6776 3500円 ※harmoia mundi原盤
年代物の楽器を使って名手たちが
シューマンの室内楽の傑作を演奏
ヴァイオリンのファウストとシュライバー、ヴィオラのタメスティ、チェロのケラス、ピアノのメルニコフという名手が勢ぞろいしたこの録音は、各人が1600年~1800年代に制作された楽器を用い、シューマンの魂に近づくような奥深く文学的で歌心にあふれたアンサンブルを繰り広げている。弦楽器の古雅な響きにブレイエル製のピアノがからむと、えもいわれぬ芳醇な薫りが立ち昇る。霊感に満ちた魅惑的な曲想が5人の演奏で現在に蘇る。
石戸谷結子◎音楽評論家
ソクジョン・ベク(サムソン)、エリーナ・ガランチャ(デリラ)、ほか
アントニオ・パッパーノ(指揮)
コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団
リチャード・ジョーンズ(演出)
(NAXOS)NYDX50342 5500円
※輸入盤、OPUS ARTE原盤、日本語字幕・解説付き
デリラ役のガランチャが妖艶
演出はガザ地区の状況を思わせる
2022年6月の公演。予定されていたカウフマンやアラーニャではなく、韓国人のベクがサムソン役で同オペラ・デビュー(彼はメットにも《ナブッコ》でデビューした)。美声だが、小柄で声量も小さく、ちょっと地味な英雄。代わってガランチャが大奮闘。妖艶で魅力的な歌唱と演技で聴衆を魅了。ジョーンズの演出は、(ガザ地区で今も起きているような)民族間の対立を暴力的に描き、緊迫したドラマに。ペリシテ人の神は巨大なアニメのフィギュアというジョーンズらしい舞台。
アスミク・グリゴリアン(ソプラノ)
ミッコ・フランク(指揮)フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
マルクス・ヒンターホイザー(ピアノ)
(ナクソス)NYCX10451 3520円 ※α原盤、日本語解説・訳詞つき
飛ぶ鳥落とす勢いのグリゴリアン
2つの伴奏版を歌い分け
いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍を続けるグリゴリアン。ロシア歌曲などは歌ってきたが、いきなりのR・シュトラウスを録音した。しかも《4つの最後の歌》を管弦楽伴奏とピアノ編曲版で。管弦楽版では、オーケストラの音色と輝かしい美声が溶けあう。ヒンターホイザーの確信に満ちた先鋭なピアノによる伴奏版は、アスミクの声と言葉をより明解に響かせる。ピアノ版《眠りにつくとき》が特に秀逸。謎めいたジャケットにはアスミクの幼い2人の子の絵を採用。