岡本稔◎音楽評論家
リヒャルト・シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」、
「ドン・ファン」
グスターボ・ドゥダメル(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ユニバーサル)UCCG-1632
2600円 (SHMCD)
オーケストラの持てる力をありのままに引き出す
グスターボ・ドゥダメルのベルリン・フィルとの初録音。オーケストラの持てる力をありのままに引き出した演奏が揃っている。そこでは音楽がもつエネルギーが最大限に表現し尽くされる。「ツァラトゥストラはかく語りき」では、過度に思索的に傾くことなく、贅を極めた響きによって押し通し、説得力豊かな演奏を実現される。「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」における語り口の豊かさも特筆に値する。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
アリーナ・イブラギモヴァ(ヴァイオリン)
セドリック・ティベルキアン(ピアノ)
(キングインターナショナル)KKC-5323/25
4500円
息の合ったデュオの醍醐味を味わう
盟友のイブラギモヴァとティベルギアンがロンドンのウィグモア・ホールで行ったベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲のライヴ録音は、息の合ったデュオの醍醐味が味わえる。みずみずしく勢いに満ちた弦に迷いのない個性的な響きのピアノが和し、生き生きとしたベートーヴェンが描き出される。「春」は快活で爽快、「クロイツェル」は情感豊か。ライヴならではの臨場感が伝わり、全曲を一気に聴かせる引力の強さが印象的だ。
石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト
ヴェルディ:「汚れがあるわ、ここにまだ」~歌劇「マクベス」より、ほか全14曲
アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
ジャナンドレア・ノセダ指揮トリノ王立歌劇場管弦楽団&合唱団
(ユニバーサル)UCCG-1635 2800円
今や立派な“ヴェルディ・ソプラノ”に成長した人気歌手の最新盤
ヴェルディではジルダからスタートした彼女だが、声を充分に熟成させて、いまや立派な“ヴェルディ・ソプラノ”に成長した。いま払底している分野だけに、今後の活躍が大いに期待される。新譜でのマクベス夫人のアリアは凄味さえあり、ジョヴァンナは初々しさも感じさせる。後半のエレナのアリアではアジリタも効かせ、エリザベッタでは深みを、レオノーラでは艶やかさと強靱さも披露した。向かうところ敵なし、アンナは当代一のスピント・ソプラノだ。
鈴木淳史◎音楽評論家
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲(室内アンサンブル版)/マーラー:交響曲第4番ト長調(エルヴィン・シュタイン編/室内アンサンブル版)
トレヴァー・ピノック(指揮)
ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック・
ソロイスツ・アンサンブル
(Linn Records)CKD-438 オープン価格
親密なアンサンブルが心地良く響く
古楽演奏のパイオニアたちがロマン派以降に手を伸ばす事例は多い。そして、そうした潮流とは縁遠いと思われていたピノックまでも……。シェーンベルクの「私的音楽協会」発祥の室内楽版による演奏だが、常に外へ外へとエネルギーを放射するマーラーとは違って、小編成ならではの親密なアンサンブルが心地良く響くのが聴き所。いつものピノック流の明快サクサク路線と思いきや、第3楽章でのチェロによる濃厚な歌い込みなども。
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1調「雨の歌」/ヴァイオリン・ソナタ第2番/ヴァイオリン・ソナタ第3番
セルゲイ・ハチャトリアン(ヴァイオリン)
ルシーネ・ハチャトリアン(ピアノ)
(Naive)V-5314 オープン価格
清廉な歌い口に心を奪われる
いかなる超絶技巧な曲であろうとセルゲイ・ハチャトリアンのヴァイオリンには妙な気負いが感じられないのがいい。このブラームスでも、その自然な音の入りにハッとしている間もなく、その清廉な歌い口に心を奪われている。さらに、ブラームスの音楽の底に沈むモヤモヤした澱のようなものにも気を取られることもなく、なめらかなフレージングで聴き手を乗せた舟はすいすいと進む。彼の姉であるルシーネの繊細なピアノも心を打つ。