岡本稔◎音楽評論家
セミヨン・ビシュコフ(指揮)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(キングインターナショナル) KKC6738 3300円
首席指揮者として成果重ねるビシュコフ
マーラーゆかりの楽団ならではの東欧的味わい
自由化後のチェコ・フィルの首席には、幾名もの人が短期間地位につき、リレーしてきた。しかしそうした共同作業は大きな実を結ぶに至らなかった印象もある。それに対し、2018年に首席に就いたビシュコフは着実に成果を挙げている。4作目にあたるマーラー・チクルスにもそれは如実に示されている。演奏スタイルの西欧化を強いることのない、東欧的な美感を尊重した音楽は味わい深い。マーラーにもゆかりのあるこの楽団ならではの演奏だ。
大野和士(指揮)
東京都交響楽団
藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)
宮里直樹(テノール)
(Altus) ALT530 オープン価格 ※輸入盤
オペラ指揮者としての手腕活かす大野
都響のマーラー演奏の伝統も受け継ぐ
2021年4月にコロナ禍のため無観客で行われた演奏会ライヴ。ここでは長年オペラ指揮を中心に活躍してきた大野の手腕が最大限に活かされている。独唱者との呼吸の妙から多彩な表情が織りなされ、それは一幅のタペストリーを見るようだ。なかでも藤村がソロをつとめる長大な第6楽章は傑出しており、時に寂寥感もただよう。若杉弘やガリー・ベルティーニといった歴代の監督によって築かれたマーラー演奏の伝統も活かされている。
伊熊よし子◎音楽評論家
ヴィキングル・オラフソン(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG45082 3080円 ※DG原盤
作品に新風を吹き込み、
洞察力の深さで勝負
ヴィキングル・オラフソンが《ゴルトベルク変奏曲》を録音。彼がベルリンで演奏した同曲がドイツ・グラモフォンのディレクターの目に止まり、2016年に録音契約。その記念の作品がついにリリースされた。オラフソンの演奏は初めて聴いた人に衝撃を与え、新たな発見を促し、音楽を聴く真の喜びを目覚めさせる。「革命児」と呼ばれるように作品に新風を吹き込み、洞察力の深さで勝負する。《ゴルトベルク》も衝撃的な演奏で、脳が覚醒する。
レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)
(ソニー)SICC30700 2860円
ドヴォルザークのピアノ曲を
格調高いピアニズムで紡ぐ
レイフ・オヴェ・アンスネスが幼いころから録音を聴き続け、ジュニアコンクールでも演奏し、大人になってからは全曲弾くことを夢見てきたドヴォルザークの《詩的な音画集》(13曲構成)。10月の来日公演でも何曲か披露し、作品に対する深き愛情を示した。ドヴォルザーク特有の民族性に富む旋律、リズム、フレージングなどがアンスネスの格調高いピアニズムで紡がれ、作品の内奥へと導かれる。新たな作品を知る歓びに目覚める。
石戸谷結子◎音楽評論家
アイーダ・ガリフッリーナ(ジュリエット)、
サイミール・ピルグ(ロメオ)ほか
ジュゼップ・ポンス(指揮)バルセロナ・リセウ大劇場管弦楽団&合唱団
スティーヴン・ローレス(演出)
(キングインターナショナル)KKC9829 6700円〈BD〉、KKC9830
〈DVD〉6700円 ※輸入盤、C‐Major原盤、日本語字幕・解説付き
人気の美男美女を主役に配し、
対照的に悲劇性を前面に出した演出
シェークスピアの悲劇を原作としたグノーの傑作オペラ。2018年2月、バルセロナのリセウ大劇場での公演。ピルグとガリフッリーナという当代人気の美男美女コンビが主演。ローレスの演出は、5幕全ての背景が名前の書かれた墓(壁になっている)という設定。全体に暗く、悲劇性を前面に出しており、甘く美しい音楽と対照的に描いている。ピルグは叙情的な美声と端正な表現で、悲劇のヒーローを熱演。ガリフッリーナもジュリエットにふさわしい可憐な容姿だ。