岡本稔◎音楽評論家
セルジュ・チェリビダッケ(指揮)ミュンヘン・フィル
(東武レコーディングス)TBRQ-9009 オープン価格(2CD)
チェリビダッケ最高の名演リスボン・ライヴ
チェリビダッケ・ファンから彼の最高の名演と支持されてきた1994年のポルトガルのリスボン・ライヴがようやく正規盤でリリースされたことを歓迎したい。十八番だった第8番は、日本公演のほか、ドイツでも幾度も体験した。その解釈の根幹はもちろん揺らぐことはないが、巨匠の演奏は会場の音響や彼自身の体調によってさまざまに変化した。その最良の成功例がこの演奏だろう。音質も不満がなく、巨大伽藍の全貌にふれることができる。
●モーツァルト:レチタティーヴォとアリア(ロンド)「あなたのことを忘れろと?~恐れないで、愛する人よ」/ピアノ四重奏曲第2番/ピアノのためのロンド/ピアノ三重奏曲第3番
レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ・指揮)
マーラー・チェンバー・オーケストラ、他
(ソニー)SICC-30597/8 3960円(2CD)
様式を守りながら、独自の即興性も発揮するアンスネス
モーツァルトのウィーン時代の頂点、1785、86年に焦点をあてたアンスネスとマーラー・チェンバー・オーケストラのプロジェクト「モーツァルト・モメンタム」の完結編。ピアノ協奏曲第23番、第24番という対照的な性格の2曲を軸に、ピアノを含む室内楽やコンサート・アリアを収録。アンスネスのソロは、モーツァルトの様式の枠を的確に守りながら、独自の即興性も縦横に発揮させたもの。オーケストラとの掛け合いの妙も聴きどころだ。
ジョン・バルビローリ(指揮)ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
(Testament/キングインターナショナル) KKC-6481 2530円
品位を保ち、生演奏ならではの高揚感や即興性も
1967年のライヴ。この組み合わせによる第6番には、EMIに遺したセッション録音があり、永らく高い評価を受けていたが、こちらはその録音の直前のライヴ。マーラーにふさわしい感情の大きな起伏は伴い、生演奏ならではの高揚感や即興性も併せ持つものの、決して音楽のフォルムを壊すことなく、どのような場面でも常に品位が保たれている。嗚咽や絶叫とは無縁で、マーラー作品があくまで交響曲であることを再認識させる名演といえるだろう。
鈴木淳史◎音楽評論家
●オズワルド:彼女は何も着ていないときがいちばんかわいい
●アヴィソン:ラルゴ●ジェミニアーニ:合奏協奏曲「ラ・フォリア」
●ポルポラ:チェロ協奏曲 ト長調●ハッセ:フーガ
●ヘンデル:聖チェチーリアの祝日より●チッリ:チェロ協奏曲第2番、他
オフェリー・ガイヤール(チェロ&指揮)プルチネッラ・オーケストラ、サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)、他
(Aparte)AP-274 オープン価格
ロンドンの狂騒が感じられる多彩な一枚
ヴィヴァルディなどで弾力性ある演奏を聴かせるチェロ奏者ガイヤールが、自ら創設したアンサンブルと挑んだ、18世紀の最大の音楽都市ロンドンの狂騒が感じられるアルバム。民謡を主題にしたオズワルドやジェミニアーニの小品をしめやかな表情、そして快活なリズムで奏でたかと思えば、ポルポラの協奏曲をオペラの技巧的なアリアのように華麗に歌わせる。ゲスト参加のピオーによるヘンデルのアリアなども加わって、じつに多彩な一枚。
イム・ドンヒョク(ピアノ)
(Warner Classics)9029631946 オープン価格
たくましくも、どこか優しいシューベルト
数々のコンクールで入賞歴をもち、アルゲリッチからの評価も高いソウル生まれのピアニストの弾くシューベルトは、たくましくも、どこか優しい。流麗にすべてを連ねるのではなく、一つひとつの音を切り立てていく第20番。ソリッドに構えたフレーズの作りも個性的だ。第21番は、冒頭楽章の提示部最後や、緩徐楽章の最後など、和音の麗しい響きをふんわりと香り立たせるのが印象的だ。すべては穏やかに解決すべきと言わんばかりに。