岡本稔◎音楽評論家
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)NHK交響楽団
(ソニー) SICC19067 3630円
20世紀の名作で真価を発揮、ヤルヴィ/N響の総決算的名盤
P.ヤルヴィがNHK交響楽団の首席指揮者をつとめた2015-22年に打ち立てた大きな功績として、このオーケストラがあまり取り上げてこなかったストラヴィンスキーやバルトークといった20世紀の名作を積極的にプログラムに乗せ、真価を明らかにする名演を実現したことがある。当盤はその総決算ともいうべきもの。オーケストラの精緻なアンサンブル、作品をありのままに描き出す様式を踏まえた表現は特筆に値する。
イザペル・ファウスト(ヴァイオリン)
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)レ・シエクル
(キングインターナショナル) KKC6675 3300円
ストラヴィンスキー新古典主義時代の名作の魅力をありのままに
ストラヴィンスキーの新古典主義時代を代表するヴァイオリンが活躍する名作を集めた好企画盤。ロトはヴァイオリン協奏曲について「20世紀の《ブランデンブルク協奏曲》ともいえる」という。ファウストと対位法が駆使された作品でいきいきとした対話を行い、音楽の魅力をありのままに引き出している。また、色彩的なパレットの多彩さにも驚かされる。散りばめられたニュアンスの豊かさはこれまでに体験したことがない類のものだ。
伊熊よし子◎音楽評論家
佐藤晴真(チェロ)、久末航(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-1900 3300円 ※DG原盤
聴き手を夢見心地にし、作曲家の魅力を全身にまとわせる
佐藤晴真(はるま)が久末航(わたる)と組んでメンデルスゾーンの作品集を完成させた。チェロ・ソナタ第1番と第2番の間に《無言歌》《歌の翼に》《協奏的変奏曲》を収録。ソナタ第1番は古典的な書法が際立ち、ソナタ第2番は人気の高い作品で、全4楽章が美しい絵画のような趣を備えている。聴き手を夢見心地にし、メンデルスゾーンの魅力を全身にまとうことができるデュオだ。佐藤晴真の低音は自身が旋律をうたっているよう。奏者の心の歌が横溢する。
石戸谷結子◎音楽評論家
ジョディ・デヴォス(ガブリエル)、ロドルフ・ブリアン(ギャルドフ)、
マルク・モイヨン(ボビネ)、ほか
ロマン・デュマ(指揮)ルーヴル宮音楽隊、ナミュール室内合唱団、ほか
クリスティアン・ラクロワ(演出・舞台美術・衣装)
(ナクソス)NYDX50278 5500円 ※輸入盤 日本語字幕・解説書付き
有名デザイナー、ラクロワが演出した華やかなオペレッタ
初演当時、大ヒットしたというオッフェンバックの傑作オペレッタ。この映像は初演時より前に完成させたオリジナル・バージョンを復刻し、5幕版として上演。有名デザイナーのラクロワが演出・美術・衣装を担当して1866年ころの観光客でごったがえす歓楽の街パリの日々を華やかに描写している。うきうきとした楽しい音楽と派手な衣装、展開の早い舞台と皮肉の効いたセリフも面白く、一気にフィナーレへ。ロマン・デュマの指揮も軽快で、オリジナル楽器の響きもノスタルジック。
カミラ・ニールント(マドレーヌ)、ダニエル・ベーレ(フラマン)、
ニコライ・ボルチェフ(オリヴィエ)ほか
クリスティアン・ティーレマン(指揮)シュターツカペレ・ドレスデン
イェンス=ダニエル・ヘルツォーク(演出)
(キングインターナショナル)KKC9788 5940円
※BD、輸入盤、ART HAUS MUSIK原盤、日本語字幕・解説付き
出だしから深遠で哲学的な世界に導くティーレマン
2021年の5月、ドレスデン国立歌劇場で無観客上演された。ティーレマンお得意の曲だけに、出だしから深遠で哲学的な世界に導かれる。「音楽が先か、言葉が先か」という永遠のテーマをおしゃれで粋な作品に込めたR・シュトラウス。演出のイェンス=ダニエル・ヘルツォーク(新国《マイスタージンガー》の演出家だ!)は、序曲部分で一つの結論を。マドレーヌは2人のどちらも選べずに年老い、詩人も音楽家も独身のまま老いる。ニールントが歌う「鏡の中のマドレーヌ」が素晴らしい。