岡本稔◎音楽評論家
小澤征爾(指揮)
水戸室内管弦楽団
(ユニバーサル)UCCD-1413 3240円
ひたすら作品の本質に迫る小澤の指揮
2014年に開催された2つの演奏会のライヴ。病を克服した後の小澤は、長時間の指揮は負担が多いものの、メインの作品のみに集中した演奏にはきわめて燃焼度の高いものがある。この2曲はそうした小澤の現在を如実に表したもの。無駄な力を排し、心地よい緊張感をはらんだベートーヴェンには、ひたすら作品の本質に迫るような趣がある。名手を集めた水戸室内管弦楽団は、見事なアンサンブルで敬愛する小澤の意図をありのままに表現している。
●ヴェルディ:「運命の力」序曲、「アイーダ」凱旋行進曲、「ナブッコ」より“行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って”、「マクベス」より“踏みにじられし祖国よ”●ロッシーニ:「ウィリアム・テル」序曲、他
アンドレア・バッティストーニ(指揮)
カルロ・フェリーチェ歌劇場管弦楽団/合唱団
(コロムビア)COGQ-72 3024円
イタリアの若手注目株による胸のすくようなオペラ名曲
バッティストーニは1987年にヴェローナに生まれたイタリアの若手注目株。2013年よりカルロ・フェリーチェ歌劇場の首席客演指揮者のポストにある。イタリア・オペラのエッセンスを凝縮した感のある曲目で若さを存分に発揮した胸のすくような演奏を聴かせている。ヴェルディの「運命の力」序曲などオーケストラが火の玉を発するような感がある。「椿姫」第1幕への前奏曲で聴かせる精妙なニュアンスも聴きものだ。20代の今しか聴けないような音楽である。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
●エドガー・メイヤー&クリス・シーリー:ホワイ・オンリー・ワン?/ターネーション/オウルド・ビーグル/ビッグ・トップ/ルック・ホワット・アイ・ファウンド、他
クリス・シーリー(マンドリン)
エドガー・メイヤー(コントラバス)
(ワーナー)WPCS-12934 2808円
楽器の可能性を広げるノリのいい演奏
第57回グラミー賞、2部門ノミネートというコントラバスの名手エドガー・メイヤーと、バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」で斬新な演奏を聴かせたマンドリンの魔術師クリス・シーリーが、リズムもフィーリングも自由自在、即興も超絶技巧もなんのそのというユニークなアルバムを作り上げた。温かくおだやかで、両楽器の可能性を広げる演奏は何度も聴きたくなる。からだが自然に動くのは、彼らのノリが移るから?
石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト
アンナ・ネトレプコ(イオランタ)
セルゲイ・スコロホドフ(ヴォデモン)
ヴィタリー・コワリョフ(レネ王)、 他
エマニュエル・ヴィヨーム(指揮)
スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団
スロヴェニア室内合唱団
(DG)479 3969(2CD)、輸入盤 オープン価格
ネトレプコはじめ豪華な顔ぶれで臨んだ作曲家晩年のオペラ
バレエ「くるみ割り人形」と一緒に上演されるために作曲されたというこのオペラ。近年、ネトレプコがMETをはじめ世界各地で歌っている話題作だ。盲目のお姫さまが最後に愛と光を得るというメルヘン・オペラだが、チャイコフスキーの晩年に作曲されただけあって、旋律が透明な叙情に満ちていて感動的な作品。ネトレプコは厚みのある美声で説得力のある歌唱。恋人役の、セルゲイ・スコロホドフも若々しい美声テノールだ。マルコフ、コワリョフと豪華顔ぶれ。
鈴木淳史◎音楽評論家
●ヒンデミット:チェロとピアノのためのソナタ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 、他
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)
イサベル・ファウスト(ヴァイオリン)
トゥーニス・ファン・デア・ズヴァールト(ホルン)
アレクサンデル・ルーディン(チェロ)、他
(Harmonia Mundi France)HMC-905271 オープン価格
メルニコフの魅力が発揮されたヒンデミット
ヒンデミットは様々な楽器とピアノのためのソナタ作品を30曲書いた。新古典派ならでは適度に乾いた作品。これが、メルニコフの可愛らしいくらいにキッチリと明瞭なピアニズムと相性が抜群だ。ドライすぎず、ナヨナヨせず。ファウストをソリストに迎えたヴァイオリン・ソナタもいいが、メルニコフの小気味いい技巧が発揮されるチェロ・ソナタのダイナミックさに驚く。そして、金管とのデュオは、2つの楽器の距離感がまこと心地良い。