岡本稔◎音楽評論家
●ブゾーニ:悲劇的子守歌
スーザン・グラハム(メゾ・ソプラノ)
クリスティアン・エルスナー(テノール)
ディヴィッド・ジンマン(指揮)
チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
(ソニー)SICC-10210
3024円(SACDハイブリッド)
生との告別の物語を儚い美しさを保ちながら描き出す
2006年から10年にかけて収録されたジンマンとチューリヒ・トーンハレ管弦楽団によるマーラーの番号付き交響曲全集の完結編として12年に収録。オーケストラの洗練された響きを活かし、マーラーの生との告別の物語を儚(はかな)い美しさを保ちながら描き出す。テノールのエルスナー、メゾ・ソプラノのグラハムはともにジンマンの解釈を的確に表現した優れた歌唱を聴かせている。同じく死をテーマとしたブゾーニの悲歌的子守歌も秀逸だ。
●ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」より第4楽章
●モーツァルト:交響曲第40番より第1楽章、他
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、他
(ワーナー)WPCS-12650 1296円
未発表音源を含むカラヤン没後25年記念アルバム
カラヤンの没後25周年にあたって、帝王がEMIレーベルに残した音源から編まれたコンピレーション・アルバム。1959年から84年にかけて収録されている。モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」や交響曲第40番を聴いて、とても懐かしい気持ちにとらわれた。これらの曲に慣れ親しんだのはまさにこうした解釈だったからである。ベートーヴェンの交響曲第9番の終楽章については未発表のステレオ版をはじめて収録。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
アルカント・カルテット
イェルク・ヴィトマン(クラリネット)
(キングインターナショナル)KKC-5369
3086円
ヴィトマンを迎えモーツァルトの熟成した響きを聴かせる
アルカントとは、「うたう弓」を意味する造語。ソロや室内オケで活躍している4人が集まって2004年から活動開始。またたくまにヨーロッパで高い評価を得た。今回はいま話題のクラリネット奏者であり作曲家でもあるヴィトマンを迎え、モーツァルトが現世の衣を脱ぎ捨てたような天上の美があふれる曲を幻想的に表現。弦楽四重奏曲も強い確信を備えた明晰な演奏で、モーツァルト壮年期の熟成した響きを見事なアンサンブルで聴かせる。
●バッハ:組曲ニ長調/組曲イ短調/組曲ホ短調/6つの小品「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖」より/シンフォニアハ長調
福田進一(ギター)
(マイスターミュージック)MM-2177
3041円
バッハの偉大さを理解し、編曲の妙が味わえる
福田進一がギターで演奏可能なバッハの作品を網羅するプロジェクトの第4集は、無伴奏チェロ組曲から「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖」まで多彩な選曲。すべてが彼の編曲によるもので、とりわけ最後に置かれた「シンフォニア」が胸の奥にしみじみと響いてくる。いずれもギターで奏でられると新たな発見があり、バッハの偉大さが理解でき、心が浄化する思いにとらわれる。和声付けや装飾など、編曲の妙が味わえる貴重な盤。
長木誠司◎音楽評論家
●ミチェスワフ・ヴァインベルク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番/三重奏曲/ソナチネ/小協奏曲
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
ダニール・トリフォノフ(ピアノ)
ダニール・グリシン(ヴィオラ)
クレメラータ・バルティカ
(ECM)UCCE-7532 5184円
ナチス、ソ連を生き抜いたユダヤ人作曲家を再発見
ポーランド生まれのユダヤ人で、ナチとスターリンの迫害、ソ連の教条主義を辛うじて生き抜き、近年になって再発見されたヴァインベルクの作品集。作品普及に力を入れているクレーメルが独奏と室内楽で、冷ややかな感触の抒情性を披露する。また、22曲残された交響曲のうち、バルシャイに捧げられた第10番でアンサンブルをリードしている。ショスタコーヴィチにも通じるスタイルだが、深刻ぶらない率直な明るさも垣間見える。