岡本稔◎音楽評論家
サイモン・ラトル(指揮)
ロンドン交響楽団
(キングインターナショナル) KKC6753
3300円 ※LSO原盤
コールス校訂版の世界初録音
ブルックナーに相応しい呼吸感のライヴ
バーミンガム市響、ベルリン・フィルの時代にもブルックナーを取り上げていたが、この作曲家の曲がラトルの代表的なレパートリーとは言い難い印象もあった。それは知将というイメージを感じさせるところがあり、心に染み入るところが希薄だったからかもしれない。しかし、この2022年のライヴでは、隙のないアンサンブルはそのままに、ブルックナーにふさわしい呼吸感が備わってきた。コールス校訂版(2015年)による世界初録音にあたる。
ドビュッシー:《遊戯》《牧神の午後への前奏曲》
クラウス・マケラ(指揮)
パリ管弦楽団
(ユニバーサル)UCCD45026
3080円 ※DECCA原盤
マケラ/パリ管の明晰で現代的な音世界
シャマユのピアノも特筆
マケラとパリ管による2枚目で、「バレエ・リュス」に因む。これでストラヴィンスキーの3大バレエが出揃った。様々な色合いの音の粒がきらめき、明晰なタッチであたかも楽譜の隅々まで見通せるような音世界を構築。パリ管の名手たちは随所で腕を発揮するが、過剰な主張を排してアンサンブルに徹している。ベルトラン・シャマユのピアノの見事さも特筆に値する。ドビュッシーの2作品もフランス的であるとともに、現代的なシャープな面も併せもつ。
伊熊よし子◎音楽評論家
アブデル=ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)
(MClassics)MYCL00043 3740円 ※SACD Hybrid
エル=バシャ、待望の《戦争ソナタ》
作曲者の苦悩、混沌の時代を描き出す
名手が全身全霊を傾けて作曲家の苦悩、
狂気と混沌とした時代を写実的に表現
プロコフィエフの数々の録音で高い評価を得てきたエル=バシャが、待望の《戦争ソナタ》(第6~8番)をリリース。第6番は古典的でエネルギッシュな作風で、初演は作曲者自身。第7番はプロコフィエフの才能が遺憾なく発揮された傑作で、初演はリヒテル。第8番は変化に富んだ作品で、初演はギレリス。まさに時代を意識させ、歴史を描き出す。それをエル=バシャが全身全霊を傾けて演奏。作曲家の苦悩、狂気と混沌とした時代を写実的に表現。
●ベートーヴェン:創作主題による32の変奏曲、ほか全14曲
セドリック・ティベルギアン(ピアノ)
(キングインターナショナル)KKC6770/1 4400円
※2CD、harmonia mundi原盤
ティベルギアンが示す変奏曲の魅力
第2巻はより広い視野が光る
以前、ティベルギアンにインタビューしたとき、「新しい楽譜を見始めると早く達成したいという気持ちが募り、初見がきくためあっという間に最後まで弾き通してしまう」と語っていた。そんな彼が変奏曲集 第1巻でも挑戦と革新の心意気を示していたが、第2巻はより幅広い視野に立ち、選曲にこだわりを見せる。印象的なのはスウェーリンクとケージが入っていること。ベートーヴェンを核としながら各曲の変奏の妙を絵巻物のように示す。
石戸谷結子◎音楽評論家
グレタ・ドヴェーリ(キアラ)、ファン・ジョウ(セラフィーナ)、
ピエトロ・スパニョーリ(ドン・メスキーノ)、ほか
セスト・クアトリーニ(指揮)
オーケストラ・リ・オリジナーリ&スカラ座アカデミア合唱団
ジャンルカ・ファラスキ(演出・美術・衣装)
(ナクソス)NYDX50346 オープン価格
※輸入盤、DYNAMIC原盤、日本語字幕・解説付き
200年ぶり蘇演のドニゼッティ作品
多国籍のキャスト、活気ある舞台創り
ドニゼッティ25歳の時、スカラ座で初演。しかし失敗してお蔵入りとなり、2022年12月4日、ベルガモのドニゼッティ音楽祭で、なんと200年ぶりに蘇演された珍しい作品。バスのP・スパニョーリを中心に、彼が指導するスカラ座アカデミーの学生たちをキャスティング。演出・美術・衣装を担当するG・ファラスキは喜劇として楽しく活気ある舞台創りで歌手は滑稽なメイクで演技。主要な役は中国・韓国・ウクライナ・伊と国籍も多様。主役のG・ドヴェーリが演技・歌唱とも秀逸。