岡本稔◎音楽評論家
ダニエル・バレンボイム(指揮)
シュターツカペレ・ベルリン
(ユニバーサル)UCCG-45065 3850円(2CD)
手兵を意のままに、円熟の極みを窺わせる80歳記念ライヴ盤
80歳を記念するリリース。病を得て来日は出来なくなったバレンボイムだが、2021年の秋にライヴ収録されたこの全集はいま円熟の極みにあることを窺わせるものである。すっかり自らの楽器となりきったシュターツカペレを意のままに操り、スケールが豊かで細やかなニュアンスに富んだ音楽を聴かせる。やや古風で含蓄に富む味わいは、ドイツのオーケストラに稀有のものになりかけているもの。ロマン的なかぐわしい馨りにあふれる。
尾高忠明(指揮)
大阪フィル
(フォンテック) FOCD9873 3080円
朝比奈の伝統を受け継ぎつつ、尾高の個性を明確に投影
2018年に大阪フィルの音楽監督に就任した尾高忠明は、オーケストラがもつ朝比奈隆以来のブルックナー演奏の伝統を受け継ぎつつ、そこに自らの個性を明確に投影したように見受けられる。スケールの大きさ、堅固な構造は朝比奈譲りだが、そこにみずみずしい感性を漂わせる。アンサンブルの精度、音色の美しさや繊細な味わいも現代のオーケストラならではといえるだろう。新たな一歩を踏み出していることを実感させる演奏だ。
伊熊よし子◎音楽評論家
上野通明(チェロ)
(キングインターナショナル)KKC6598/9 3500円
※La Dolce Volta原盤
ごく自然に、自身の内面を吐露するようなバッハ
2021年ジュネーブ・コンクールのチェロ部門で日本人として初めて第1位を獲得した上野通明が、バッハの「無伴奏チェロ組曲」を録音。4歳のときヨーヨー・マの演奏するバッハのビデオを見て憧れ、5歳からチェロを始めた彼にとって、バッハは大切な作品。ここでは長年にわたってその神髄に近づいてきた6曲をごく自然に、自身の内面を吐露するように、また各舞曲に寄り添うように演奏。未来の大器を思わせる底力に、心が高揚する思いを抱く。
石戸谷結子◎音楽評論家
ナディーン・シエラ(ヴィオレッタ)、
フランチェスコ・メーリ(アルフレード)、レオ・ヌッチ(ジェルモン)、ほか
ズービン・メータ(指揮)フィレンツェ五月祭管&合唱団
ダヴィデ・リヴェルモーレ(演出)
(ナクソス)NYDX50252 4950円
※BD、DYNAMIC原盤、
日本語字幕・解説付き
新星ソプラノのシエラをメータ、ヌッチらベテランが支える
アメリカ出身の新星ソプラノ、ナディーン・シエラによるヴィオレッタが聴きもの。厚みのあるしっかりした声で低音も充実し、高音もきれいに伸びる。演技力もあり、現代的なリヴェルモーレの演出による舞台で、ひと際輝く存在感を見せる。85歳メータのゆっくり目のテンポに合わせ、じっくりとアリアを歌う。78歳のヌッチも父役で出演。新・旧のスターが共演した華やかな公演だ。アルフレード役のメーリも瑞々しい高音を響かせる。2021年のフィレンツェ五月祭歌劇場のライヴ。
鈴木淳史◎音楽評論家
ヴァーツラフ・ルクス(指揮)、コレギウム1704
(Accent)ACC24378 オープン価格
声高に叫ばない祖国への思いがじっとり心に染み入る
バッハやゼレンカなどバロックを得意とするアンサンブルによる、ノリントン以来となるピリオド楽器によるレコーディングだが、弦楽器も管楽器も柔らかく、一つに溶け合うような響きが古楽新世代の息吹を感じさせる。決して煌びやかで派手にアピールする「我が祖国」ではないものの、そのローカルで親密な味わいがたまらない。そんな声高に叫ばない祖国への思いがじっとりと心に染み入る。2021年のプラハの春におけるライヴ録音。