岡本稔◎音楽評論家
イルジー・ビエロフラーヴェク(指揮)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(ユニバーサル)UCCD-1450 3000円
作品への共感をにじませる急逝したチェコの巨匠の遺作
この5月に急逝したビエロフラーヴェクの遺作。どの曲でも、まるで慈しみをもって接するような心からの共感をもって演奏していることが感じとれる。2012年から首席指揮者・芸術監督をつとめたチェコ・フィルはこうした作品を取り上げるとまさに水を得た魚のよう。スラヴ民族の感性は全曲に貫かれているが、それは表面的に陥ることなく、卓越した音楽表現に巧みに織り込まれている。オーケストラの音色の美しさにも特筆すべきものがある。
●R.シュトラウス:「メタモルフォーゼン」
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
NHK交響楽団
(ソニー)SICC-10219 3240円(SACDハイブリッド)
精密なアンサンブルなだけでなく、ゆとりを持った音楽
パーヴォ/N響によるR.シュトラウス・チクルス第3弾。「ツァラトゥストラはかく語りき」では、オルガンを含む大編成のオーケストラを縦横に駆使し、この作曲家のオーケストレーションの妙を明らかにしていく。単に精密なアンサンブルを実現するだけでなく、ある種のゆとりをもって音楽を奏でていることが実感される。23の独奏楽器のための「メタモルフォーゼン」では、それぞれの奏者の技能が際立ち、対照的な世界が形成されている。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第3番/創作主題による32の変奏曲/ピアノ・ソナタ第26番「告別」/ピアノ・ソナタ第14番「月光」、他
エフゲニー・キーシン(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-1772 3780円(2CD)
磨き抜かれたテクニックと深い表現力に魅了される
巨匠の道をまっしぐらに歩み続けているエフゲニー・キーシンは、昔からベートーヴェンの作品をこよなく愛してきた。機会あるごとに各地で演奏してきたが、新譜には10年間(2006~16年)にわたるベートーヴェンのライヴが収録されている。そのときにもっとも弾きたい作品と真
長木誠司◎音楽評論家
●武満徹:地平線のドーリア(1966)/環礁─ソプラノとオーケストラのための(62)/テクスチュアズ─ピアノとオーケストラのための(64)/グリーン(67)/夢の引用─Say sea, take me!(91)
オリヴァー・ナッセン(指揮)
クレア・ブース(ソプラノ)
高橋悠治、ジュリア・スー(ピアノ)
東京フィルハーモニー交響楽団
(東京オペラシティ/タワー/フォンテック)TWFS-90013 2808円
ファンタジーの豊かさを実感させる1960年代の作品
東京オペラシティで行われた記念演奏会のライヴ。後期の甘ったるい武満ではなく、1960年代の辛口の作品が中心なのがいい。《環礁》や《テクスチュアズ》の音楽は、この作曲家の音表象やファンタジーの豊かさを改めて実感させるもの。ナッセンの指揮は情に
鈴木淳史◎音楽評論家
●ワーグナー:ロリン・マゼール編曲「ニーベルングの指環」交響組曲
ハンスイェルク・アルブレヒト(指揮)
シュターツカペレ・ヴァイマール
(Oehms)OC-1872 オープン価格(2CD)
回想シーンの連続で映画のエンディングのよう
オルガニストとして自らの編曲で「リング」を弾いたアルブレヒトが、マゼール編「リング」に挑む。マゼール自身の指揮ではそのギラギラ輝く管弦楽と濃密な歌い込みで、全曲の魅力を短縮・凝縮させた演奏、映画でいうと「予告編」のようだった。アルブレヒトは、ハーモニーを丁寧に、ゆったりと歌わせる。マゼール編曲の卓抜した