岡本稔◎音楽評論家
パブロ・エラス=カサド(指揮)、フライブルク・バロック・オーケストラ、チューリヒ・ジング・アカデミー、クリスティアーネ・カルク(ソプラノ)、クリスティアン・ベザイデンホウト(フォルテピアノ)、他
(キングインターナショナル)KKC-6234 4400円(2CD)
注目株のエッジのきいた、はつらつとした響き
スペイン出身のエラス=カサドは、ロト、クルレンツィスをはじめとするいわゆるポスト・ピリオド世代を代表する指揮者の一人。古楽奏法に固執することなく、幅広いレパートリーで個性を発揮し、ベルリン・フィルやウィーン・フィルの指揮台も経験済みの注目株だ。「第九」は冒頭からエッジのきいた、はつらつとした響きが耳をとらえる。知り尽くした曲から鮮烈な響きを導き出す。独唱、合唱もともに指揮者の意図を汲んだ名演を展開。
ダニエル・ロザコヴィッチ(ヴァイオリン)
ワレリー・ゲルギエフ(指揮)
ミュンヘン・フィル
(ユニバーサル)UCCG-40108 3080円
数多い名盤の中に新たな光を注ぎ込む
2001年生まれのロザコヴィッチの18歳の時の録音。グラモフォンからの3枚目にあたる。細やかな神経の行き届いたこの上なくみずみずしいベートーヴェン。数多の巨匠の録音が存在するこの名曲に新たな光を注ぎ込んだ演奏といえるだろう。完成度も高い水準で安定しており、歌う楽器の特性をいかんなく発揮させている。ゲルギエフは細心の配慮を払った伴奏をつけ、若き才能の輝きを支える。オーケストラの温かみのある響きも含蓄に富む。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
広瀬悦子(ピアノ)、セシール・アシーユ(ソプラノ)、
コルネリア・オンキオイウ(メゾ・ソプラノ)、サミー・カンプス(テノール)、
ティモテ・ヴァロン(バス)、アンドレイ・ペトレンコ(指揮)、他
(キングインターナショナル/MIRARE)MIR-534 オープン価格
カルクブレンナー編曲のピアノ版「第九」の世界初録音
ベートーヴェンの「第九」ピアノ編曲版というとリスト編が有名だが、パリ在住の広瀬悦子がカルクブレンナー編を録音した。世界初録音という快挙で、第4楽章には指揮者と歌手 4人と合唱も加わり、新たなピアノ版の「第九」を誕生させている。カルクブレンナー編は超絶技巧で知られ、広瀬悦子の果敢で壮絶な奏法は爽快ですらある。クリアで推進力に富む響きは「第九」のまったく新しい魅力を知らしめ、楽譜を手に入れたいと思ってしまう。
●ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」「マクベス」「シモン・ボッカネグラ」ハイライト
プラシド・ドミンゴ
(キングインターナショナル)
〈BD〉KKC-9575 6620円、〈DVD〉KKC-9576 6112円
※輸入盤、UNITEL原盤
まだまだ声量があり、迫力もあり、聴き応え充分の大歌手
79歳になるドミンゴが、ヴェローナ音楽祭にデビューして50周年を迎えた記念のガラ。バリトンの彼がいま得意とするヴェルディの3つのオペラ「ナブッコ」「マクベス」「シモン・ボッカネグラ」のハイライト場面が演じられる。装置も衣裳も着けた本格的な舞台で、主役はドミンゴ。まだまだ声量があり、演技力も迫力もあり、聴き応えは充分だ。テノールのA.C=クルスとソプラノのA.ピロッツィなど、共演者も奮闘。夏の夜の大スペクタクル舞台として楽しめる映像だ。
鈴木淳史◎音楽評論家
●ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」(フィッシャー編、弦楽六重奏版)
●シェーンベルク:浄夜
レ・プレイアード
(NoMadMusic)NMM-070 オープン価格
弦楽器のみの「田園」の新鮮さに驚く
ロト率いるレ・シエクル。そのトップメンバーによる弦楽アンサンブルだ。聴き慣れたはずの「田園」が、こんなに新鮮な姿に変わるのかと驚かされた。もちろんノン・ヴィブラートで、ソリッドな運び。チェロの2台編成なので、低音から支えるバランスも安定。展開部などでのそれぞれのパートのソリスティックな動きから、たっぷりと豊穣な和音に束ねられる様がいい。「浄夜」は、しなやかな旋律線、そして声部の絡みを綿密に描く。