岡本稔◎音楽評論家
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
ベルリン・ドイツ交響楽団
クリスティアン・テツラフ(ヴァイオリン)
ターニャ・テツラフ(チェロ)
(ナクソス) NYCX10424
2970円
故フォークトとの深い友情から生まれた一枚
テツラフ兄弟の思いが結晶したブラームス二重協奏曲
2022年に没したラルス・フォークトを追悼して、親交の深かったテツラフ兄妹はフォー クトが愛してやまなかったブラームスの二重協奏曲を中心としたアルバムを録音した。 この2人の思いが結晶したような集中力が高く、感情のこもった音楽が実現されている 。ベルリン・ドイツ交響楽団のタクトをとるのもフォークトと深い友情で結ばれたパー ヴォ・ヤルヴィ。兄がソロをつとめるヴィオッティの協奏曲、妹によるドヴォルザークの 《森の静けさ》も秀逸である。
アントネッロ・マナコルダ(指揮)
カンマーアカデミー・ポツダム
(
ソニー) SICC2325 2860円
生命力あふれる演奏はマナコルダの独壇場
ベートーヴェン演奏史に一石を投じる
マナコルダと手兵によるベートーヴェン交響曲全集の第2弾。弦楽器群にピリオド奏 法を適用し、金管とティンパニには時代楽器を使用するやり方は、今日ではかなり広く 行われているもの。マナコルダの場合は、隅々まで訓練を行き届かせ、この上なく生命力にあふれた演奏に結実させ、彼の独擅場を現出させている。なかでも、弦の多彩な表 情は印象的。数多あるベートーヴェン演奏の中に、新たな一石を投じるものであるのは 間違いない。
伊熊よし子◎音楽評論家
ヴァレリー・アファナシエフ(ピアノ)
(ソニー)SICC19075 3630円
「録音せずには…」との強い思いで
じっくりと弾き込んだ入魂の演奏
ヴァレリー・アファナシエフがこれまで演奏会でも取り上げたことの なかったベートーヴェンの《ハンマークラヴィーア・ソナタ》を録音。 演奏時間は全4楽章で58分5秒。第3楽章の「アダージョ」は22分12秒かけ、 じっくりと弾き込む。冒頭から特有のテンポで幕開け。彼はライナーノーツ に「これを録音しないままこの世に別れを告げるのはとても耐えがたい」と記している。入魂の難曲は聴き手の心の奥深く浸透し、強烈な印象を残す。
石戸谷結子◎音楽評論家
カルロス・アルヴァレス(リゴレット)、ハビエル・カマレナ (マントヴァ公爵)、デジレ・ランカトーレ(ジルダ)、ほか
リッカルド・フリッツァ(指揮)
リセウ大歌劇場管弦楽団&合唱団 モニク・ワーゲマーカース(演出)、
サンディ・パウエル(衣裳)
(キングインターナショナル)KKC9813 6700円〈BD〉、KKC9814 4700円〈DVD〉
※ 輸入盤、C-Major原盤、日本語字幕・解説付き
公爵役に第一人者カマレナを迎え、
題名役アルバレスも深い歌唱披露
2017年リセウ大劇場のライブ。ベルカント・オペラを得意にして きたカマレナだが、近年はマントヴァ公爵役を歌い、ヨーロッパ 各地で大評判になっている(2024年には日本でも歌う)。この映像 でも輝かしい高音も素晴らしいが、歌唱も巧く、この役では第一人者 だろう。リゴレット役のアルバレスもまた朗々とした美声に加え、 深い歌唱で虐げられた者の苦悩を見事に表現。演出はオランダの女流、 ワーゲマーカース。鮮やかな色彩が美しい抽象的な舞台で、衣装も豪華。
フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
ジュリアン・ショヴァン(指揮、ヴァイオリン)
コンセール・ ド・ラ・ローグ
(ワーナー)5419763388
※輸入盤、ERATO原盤、日本語歌詞・ 解説書つき
オペラ台本作者の未録音曲を集め
多彩な音色や超絶技巧で歌い上げる
これまで多くの知られざるバロック期のオペラやアリアを発掘 してきたジャルスキー。本人は「図書館で眠っている曲を探しだすのは、 バロック音楽家がよく罹るウィルス」で、「宝探し」だと言う。 この新譜は有名な台本作家、メタスタージオのテキストになる曲を 集めたディスクで、いずれも未録音のもの。ジャルスキーは 2オクターヴの声域やさまざまな音色や超絶技巧を駆使して、 未知の曲を抒情的にドラマチックに歌い上げる。本人による詳細な 曲目解説も興味深い。