岡本稔◎音楽評論家
●チャイコフスキー:「レンスキーのアリア」/「ただ憧れを知る者のみが」/「メロディ」/「感傷的なワルツ/瞑想曲」、他 ダニエル・ロザコヴィッチ(ヴァイオリン)、ウラディーミル・スピヴァコフ(指揮)、ロシア・ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団
(ユニバーサル)UCCG-1863 3080円
独自の個性を反映させたストックホルム生まれの俊英
2001年、ストックホルム生まれの俊英の最新ディスク。協奏曲では、歌う楽器ヴァイオリンの特性を、そこにみずみずしい独自の感性を反映させた清新な音楽を聴かせる。数多の巨匠ヴァイオリニストによって解釈の可能性が極められた感のあるこの作品からまぎれもない独自の個性を反映させた演奏を実現。スピヴァコフが指揮のロシア・ナショナル・フィルが着実にそうしたソロを支える。併録された小品でも歌心豊かな音楽を語りだしている。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
●ベートーヴェン:ドレスラーの行進曲による9つの変奏曲/「選帝侯ソナタ」第1番/ピアノまたはオルガンのための2つの前奏曲/騎士バレエのための音楽/ピアノ・ソナタ第1番」、他
シプリアン・カツァリス(ピアノ) (Piano21/東京エムプラス)P21-060N
オープン価格(6CD)
ベートーヴェンの室内楽作品などをピアノで
1980年代にベートーヴェンの交響曲のピアノ編曲版(リスト)を録音し、オーケストラ作品をピアニスティックに再現する醍醐味を披露したシプリアン・カツァリスが、ベートーヴェン生誕250年を記念して再びユニークなアルバムを作り上げた。室内楽作品などをピアノで奏でるというもので、カツァリスはライナーノーツも執筆し、各曲の紹介も。曲は年代順に収録。ベートーヴェンの多彩な曲想、作品の経緯、構成、内面に近づける貴重な盤である。
安田和信◎音楽評論家
●ヴィヴァルディ:アリア「体じゅうの血が凍りつく思い」~歌劇「ファルナーチェ」 より/アリア「松明と毒蛇を携え、ものものしく」~オラトリオ「ユディトの勝利」より/ファゴット協奏曲、他
トーマス・ダンフォード(指揮)
ジュピテール レア・デザンドル(メゾ・ソプラノ)
(アルファ/Naxos)NYCX-10101 2970円 〈録音:2018年〉
よく練られたプログラムを若手の腕利き器楽集団で
結成間もないフランスの古楽団体の録音。今話題のメゾをゲストにオペラ・アリアと協奏曲を対比させる内容。例えば有名なヴァイオリン協奏曲《冬》の第1楽章が鳴り始めたと思いきや、実は原曲の《ファルナーチェ》のアリアであるというように、プログラムはよく練られている。器楽陣も若手の腕利きを結集させており、演奏自体の充実も聴きもの。通奏低音に天才的チェンバロ奏者ジャン・ロンドーが加わっているのも良い。
石戸谷結子◎音楽評論家
●ポルポラ:歌劇「ポリフェーモ」より/ハッセ:歌劇「アントニオとクレオパトラ」より/ブロスキ:歌劇「メローペ」より、ほか全11曲
チェチーリア・バルトリ(メゾ・ソプラノ) ジョヴァンニ・アントニーニ(指揮) イル・ジャルディーノ・アルモニコ(1-10)、ほか
(ユニバーサル)UCCD-1478 3080円 ※Decca原盤
大カストラート、ファリネッリに書かれた曲に焦点を当てる
これまで数々のバロック・オペラのレパートリーを復刻してきたバルトリ。今回はファリネッリに焦点を当てて、彼のために書かれた曲を録音した。ファリネッリの師、ポルポラと兄のブロスキの曲が中心だ。コロコロと転がる超絶技巧のアジリタを駆使し、軽やかに繊細にニュアンス豊かに歌い上げる。神の声と評されたカストラートはどんな声だったのか。その謎を追求し続けるバルトリの挑戦だ。毎回ジャケット写真に凝っているが、今回は濃い髭(ひげ)を生やして中性に変身。
鈴木淳史◎音楽評論家
マリス・ヤンソンス(指揮) バイエルン放送交響楽団
(Br Klassik)900185 オープン価格
最強コンビによる格式高いショスタコーヴィチ
昨年亡くなったヤンソンスの2010年のライヴ録音。この指揮者のショスタコーヴィチはじつに格式高い。しかも機能性世界一のバイエルン放送響との最強ともいえるコンビ。第1楽章の展開部の絶頂部分での堂々たるリタルダンド。第2楽章も弦楽器の精密な動きに瞠目。そして、金管の出し入れの絶妙なこと。最終楽章の慌ただしい再現部も異常なまでに整理されている。そして、家に初めてカラーテレビが来た日のような、目に染みる色彩。