岡本稔◎音楽評論家
イヴェタ・アプカルナ(オルガン)
マリス・ヤンソンス(指揮)
バイエルン放送交響楽団
(BRKlassik)NYCX-10138 2750円
指揮者の人間性がにじみ出たきわめて音楽的な演奏
2019年11月30日に急逝したマリス・ヤンソンスがその年の3月に残したライヴ。いずれもこの巨匠が到達していた芸域の高さを如実に示すもの。これらの作品はあまり頻繁に取り上げていなかったレパートリーに属すだろうが、作品の隅々まで万全の配慮を払い、極めて音楽的な演奏を実現している。フランス的な響きとは一味異なるとはいえ、南ドイツ的な明るめの音色と指揮者の人間性がにじみ出るような味わい深い音楽は絶品だ。独奏も秀逸。
●シューマン:序曲「マンフレッド」
ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)
ロンドン交響楽団
(LSO Live/キングインターナショナル)
KKC-6142 3300円 (SACDハイブリッド)
抑制をきかせ過度にロマン的に傾かない演奏
ガーディナーとロンドン響によるシューマンの交響曲全集の完結編である。この指揮者は1997年にオルケストル・レヴォリュショネール・エ・ロマンティークとともに、初期の習作を含むより網羅的な全集をリリースしていたが、今回はモダン楽器の名門との再録音。ピリオド・アプローチを前面に出すことはないが、常に抑制をきかせ、過度にロマン的に傾くことはない。リズム感、生命力にもあふれ、ガーディナーの円熟が如実に反映されている。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
●ブラームス:ピアノ三重奏曲第1~3番/クラリネット三重奏曲
ジョフロワ・クトー(ピアノ)、アモリ・コエトー(ヴァイオリン)、ラファエル・ペロー(チェロ)、ニコラ・バルデイルー(クラリネット)
(キングインターナショナル)LDV-64 オープン価格(2CD)
息の合った仲間とブラームスの深遠さなどを表現
2005年ブラームス・コンクールで第1位に輝き、2016年ブラームスのピアノ独奏曲全集をリリースして高い評価を得たジョフロワ・クトーが、ブラームスのピアノを伴う室内楽全作品の録音プロジェクトを敢行中。第2弾はピアノ三重奏曲とクラリネット三重奏曲が登場。息の合った仲間とブラームスの厳粛さ、静穏、抑制した情熱、深遠さなどをこまやかに表現し、ブラームス好きの心をとらえる。クトーのピアノは年々深化を遂げているようだ。
石戸谷結子◎音楽評論家
●R.シュトラウス:「4つの最後の歌」/歌曲「あおい」/「矢車菊」「明日(明日の朝)」ほか、全16曲
ディアナ・ダムラウ(ソプラノ)、ヘルムート・ドイチュ(ピアノ)、マリス・ヤンソンス(指揮)バイエルン放送響
(ワーナー)WPCS-13827 3080円 ※Erato原盤
故ヤンソンス指揮の伴奏を得て静謐な世界を描く
天上から降り注ぐような繊細で澄んだ声、考え抜かれた精緻な表現力。ダムラウは間違いなく、現代最高のソプラノの1人だ。その力はリートでより強く発揮される。「4つの最後の歌」は、急逝した巨匠ヤンソンスの伴奏。人間的で温かい音色が特徴のバイエルン放送響の柔らかい演奏に乗って、透明な声がこの世のものとは思えない悟りに満ちた
ジャクリーン・ワーグナー(オイリアンテ)
ノルマン・ラインハルト(アドラール)、ほか
コンスタンティン・トリンクス(指揮)
ウィーン放送響&アルノルト・シェーンベルク合唱団
クリストフ・ロイ(演出)
(ナクソス)NYDX-50068 4400円 ※BD、輸入盤、日本語字幕・解説付き
演技力ある歌手を得て、緊迫したドラマが展開する
上演の機会が少ない「オイリアンテ」(カリアリ歌劇場ライヴの日本発売DVDあり)だが、ウェーバーの意欲作で骨太な作品。悪人の男女にそそのかされ、陰謀に巻き込まれる夫婦の愛憎物語で、2018年アン・デア・ウィーン劇場のライヴ。ロイの演出は3幕まで同じ部屋で物語が進行する。登場人物たちの心理劇として捉え、亡霊や大蛇など超自然的なエピソードをカット。主役のワーグナーと夫役のラインハルトなど、歌手たちは演技力があり、緊迫したスリリングなドラマが展開。