岡本稔◎音楽評論家
崔文洙(ソロ・ヴァイオリン)
井上道義(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
(オクタヴィア)OVCL-00800
3850円
長年の共演で信頼関係深い井上/新日本フィル
多彩な音のパレットを駆使した幻想的演奏
昨年をもって指揮活動から引退した井上道義の2021年のライヴ。新日本フィルは46年にわたって共演を重ね、音楽監督等の重責もつとめあげた井上にとって最も関係の深いオーケストラ。この様々なアプローチが可能な作品を指揮するにあたって、彼は「極彩色にやる。シャガールの絵みたいに作ります(山田治生氏によるライナーノートより)」と語ったという。その言葉のとおり多彩な音のパレットを駆使した幻想的な演奏である。
秋山和慶(指揮) 東京交響楽団
(オクタヴィア) OVCL-00866
3850円
指揮者生活60周年記念ライヴ
秋山ならではのニュアンスに富んだ解釈
秋山和慶の訃報は、あまりにも突然だった。この2024年9月のライヴは彼の追悼盤となってしまった。東京交響楽団との60年もの長い関係は、他に例がないだろう。齋藤秀雄門下で、教えを最も忠実に守った秋山は、指揮活動前半には、きわめて正確ではあるが、時に味わいに欠ける印象を与えることも。しかし、経験を深めるとともに彼ならではの押しつけがましさのない、ニュアンスに富んだ解釈へと大きく結実していった。その典型が当演奏だ。
石戸谷結子◎音楽評論家
ジャクリーン・ワーグナー(テオドーラ)、
クリストファー・ローリー(ディディムス)、
ジュリー・ブリアンヌ(アイリーン)、ほか
ベジュン・メータ(指揮)ラ・フォリア・バロックオーケストラ&アルノルト・シェーンベルク合唱団
ステファン・ヘアハイム(演出)
(NAXOS)NYDX50386〈BD〉 4950円 ※日本語解説・歌詞対訳付き
ウィーンのカフェを舞台にした演出
ヘアハイムの大胆な設定に注目
ヘアハイムが芸術監督を務めるアン・デア・ウィーン劇場は、常に超過激な舞台を創り続け注目を集める。これは2023年10月、改装中の劇場に代わり、ミュージアム・クォーターで上演されたオラトリオ。演出家のヘアハイムは、いまは観光客でごった返すウィーンの「カフェ・ツェントラル」を舞台に選んだ。カフェの従業員たちが、突然、宗教対立で迫害を受け、殉教するというシリアスなドラマを演じ始める。カウンターテナーのベジュン・メータがバロック・オケを指揮。
マグダレーナ・コジェナー(アンナ)、
アンドルー・ステイプルズ(父)、ほか
サイモン・ラトル(指揮)ロンドン交響楽団
(LSO live)LSO0880〈CD〉 オープン価格 ※輸入盤
輸入元:キングインターナショナル
ブレヒト&ワイルの音楽作品を
ラトルがニュアンス豊かに演奏
ラトル&ロンドン交響楽団が2022年4月にバービカン・ホールで行った公演のライブ。生き生きと演奏を楽しんでいるラトルの姿が見えるよう。アメリカ資本主義を痛烈に揶揄(やゆ)したブレヒトのテキストに、ジャズの要素を取り入れた軽快なワイルの音楽がマッチする。主役のアンナ役を歌うコジェナーは、演技力を発揮して家族に食い物にされながらも逞(たくま)しく生きる女を好演。他に《三文オペラ》の管弦楽組曲《小さな三文音楽》も収録。ラトルのニュアンスに富んだ鮮烈な指揮が、冴える。
●シューベルト:《白鳥の湖》より〈セレナード〉/
〈岩の上の羊飼い〉/〈水の上で歌う〉/ブラームス:〈お別れ〉/
シューマン:〈献呈〉、ほか全20曲
ファトマ・サイード(ソプラノ)、
マルコム・マルティノー(ピアノ)、
カルテット・アロド、ザビーネ・マイヤー(クラリネット)、ほか
(WARNER)2173245977〈CD〉 オープン価格 ※輸入盤
人気ソプラノが新鮮なアプローチで
リートに挑戦、共演者もユニーク
エジプト出身のファトマ・サイードによるドイツ・リート。ジャルスキーに続き、意外な歌手たちがリートに挑んでいる。ベルリンのハンス・アイスラー音楽院で学んだ彼女は、友人のアーティストたちと共演し、ひと味違う新鮮なアプローチでリートに挑戦。マイヤーと共演した《岩の上の羊飼い》や、注目のバリトン、ヒュー・モンタギュー・レンドールと歌ったシューマンの二重唱も聴きもの。シューベルトの《こびと》などドラマチックな表現も巧く、内容の濃い一枚だ。