岡本稔◎音楽評論家
サー・サイモン・ラトル(指揮)
ロンドン交響楽団
(キングインターナショナル) KKC6816
3300円 ※LSO Live 原盤
大戦前夜の重苦しい空気を湛えた鎮魂交響曲
その真価をラトル/LSOが見事に描き出す
ラトルがロンドン交響楽団の音楽監督在任中にのこした3つのブリテン作品を所収。《シンフォニア・ダ・レクイエム》(鎮魂交響曲)はバーミンガム市交響楽団とも録音がある彼の重要なレパートリーのひとつ。皇紀2600年祝賀曲として日本政府から委嘱され、受取拒否された。大戦前夜の重苦しい空気を湛えた作品は訴えかけてくるものが大きい。録音はその真価をまざまざと伝えてくれる。あとの2曲ではブリテンの異なる側面を鮮やかに描出する。
キャロリン・サンプソン(ソプラノ)、サーシャ・クック(アルト)
バリー・バンクス(テノール)、クリスティアン・イムラー(バス)、他
オスモ・ヴァンスカ(指揮)、ミネソタ管弦楽団・合唱団
(キングインターナショナル) KKC6769
3300円 ※BIS原盤
誇張避け、引き締まった味わいの《千人》
ヴァンスカの解釈が高性能のオケに浸透
フィンランドの名指揮者ヴァンスカが、2022年まで音楽監督をつとめたミネソタ管弦楽団とともに録音を進めてきたマーラーの交響曲全集から。ディミトリ・ミトロプーロスらの薫陶を得て礎が築かれたこのオーケストラは高い演奏能力をもつ。ヴァンスカはそうした持ち味を活かし、ともすると誇張した表現がとられがちなこの作品から本来の凛とした引き締まった味わいを引き出している。独唱者、合唱団にもそうした解釈は浸透されている。
伊熊よし子◎音楽評論家
フランチェスコ・トリスターノ(ピアノ)
(キングインターナショナル)KKC120 3300円 ※intothefuture原盤
バッハの各々の舞曲が生気にあふれ、
雄弁に語り、嬉々とした歌を奏でる
フランチェスコ・トリスターノは2013年12月3日、王子ホールで初めて《フランス組曲》全曲を披露した。あれから10年以上が経過し、ついにCDが完成した。彼のバッハはテクノ、ジャズ、自作を演奏する稀有な才能が発揮された斬新&自由闊達&独自のユニークさに彩られたもので、各々の舞曲が生気にあふれ、雄弁に語り、嬉々とした歌を奏でる。これがトリスターノ特有のグルーヴ感なのだろう。バッハをこよなく愛す彼の真骨頂。
石戸谷結子◎音楽評論家
●シューマン:歌曲集《ミルテの花》op.25 第1曲「献呈」、
第3曲「くるみの木」/ブラームス:ロマンスと歌 op.84
第4曲「甲斐なきセレナード」、ほか全40曲
ディアナ・ダムラウ(ソプラノ)、ヨナス・カウフマン
(テノール)、
ヘルムート・ドイチュ(ピアノ)
(キングインターナショナル)KKC9870 6700円〈BD〉、
KKC9871 5500円〈DVD〉 ※輸入盤、C-Major原盤、
日本語字幕・解説付き
シューマンとブラームスの愛の歌
2歌手が劇的に繰り広げる人生模様
ウィーン楽友協会ホールの舞台に立つカウフマンとダムラウ。2人が交互に歌い、デュエットするのは、シューマンとブラームスの愛の歌。通常のリサイタルではなくドラマ仕立てで、表情やしぐさなどで軽く演技しながら紡ぎ出すのは、さまざまな恋人たちの愛のストーリー。6つのジャンルに分かれ、情熱的な恋や哀しい恋、愛の苦しみなどを歌いあげる。歌唱と演技に優れた2人のこと、オペラのようにドラマチックに人生模様を繰り広げる。2人と共演するのは名人、ドイチュ。
鈴木淳史◎音楽評論家
アレクセイ・リュビモフ(ピアノ)、
ヴィクトリア・ヴィトレンコ(ソプラノ)
(Sony Classical)19658857032 オープン価格
尖った演奏活動で知られるロシアの名手
シルヴェストロフの作品をリリース
ソ連時代から尖った演奏活動をしてきたリュビモフ。彼のライフワークの一つが、ウクライナの作曲家シルヴェストロフの作品だ。「キッチュ・ムジーク」は、シューベルトやブラームスなどの抒情だけを抽出し、ポスト・モダン風の曲調に落とし込む。50分に及ぶ歌曲集「シュトゥフェン」では、ヴィトレンコの透明な声とともに、静かに哀歌を重ねていく。そして、祖国の戦争のさなかに書かれた新作「2つの小品」の繊細な陰影。