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新譜CD&DVD

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

マーラー:交響曲第7番「夜の歌」

マーラー:交響曲第7番「夜の歌」

キリル・ペトレンコ(指揮)バイエルン州立歌劇場管
(ナクソス)NYCX-10223 3300円

才人のタクトのもとオペラで培われた表現パレットの多彩さ

 2020年までバイエルン州立歌劇場の音楽総監督をつとめたペトレンコの18年のライヴ。ベルリン・フィルがすばらしいオーケストラであるのはもちろんだが、世界最古のオーケストラであるここの団体もそれに比肩する魅力を持っている。オペラで培われた表現パレットの多彩さ、南ドイツ特有の温かくのびやかな音色はプロイセンのスーパー・オーケストラにはないものだ。このマーラーでは、才人のタクトのもと、特質が如実に反映されている。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番、21番、22番

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番、21番、22番

●モーツァルト:幻想曲/ピアノ四重奏曲第1番/フリーメイソンのための葬送音楽
レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ・指揮)
マーラー・チェンバー・オーケストラ
(ソニー)SICC 30579/60 3960円(2CD)

ピリオド・スタイルを意識したソロに、室内楽的なオケ

 アンスネスとマーラー・チェンバー・オーケストラは、ベートーヴェンの協奏曲全集に続いて、モーツァルトに着手した。初回は1785年に成立した作品に焦点が当てられている。ピリオド・スタイルを意識したソロに、室内楽的な高い純度の響きと自発性を備えたオーケストラが含蓄に富んだ対話を交わしていく。そこでは現代的な感覚が貫かれているところも興味深い。過度に深刻にならない第20番、典雅の趣の第21番など、いずれも聴きものだ。

ブルックナー:交響曲第8番、ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

ブルックナー:交響曲第8番、
ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

ラファエル・クーベリック(指揮)バイエルン放送響
(キングインターナショナル)ALT-474/5 オープン価格(2CD)

過度に重厚に傾くことのない引き締まった音楽

 1965年のクーベリックとバイエルン放送響の初来日時のライヴ。首席指揮者に就任して4年目、51歳の時の記録だ。ブルックナーは前任者のヨッフムによって堅固な演奏の伝統が築かれたレパートリー。クーベリックはそれを尊重しながらも、過度に重厚に傾くことのない引き締まった音楽を聴かせている。心地よいテンポ感で進行するが、音楽はニュアンスに富む。「田園」は初リリース。ここでも誠実に音楽に向かう姿勢が貫かれている。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

ベートーヴェン:チェロ・ソナタ全曲~ホープ・アミッド・ティアーズ~

ベートーヴェン:チェロ・ソナタ全曲
~ホープ・アミッド・ティアーズ~

●ベートーヴェン:チェロ・ソナタ第1~5番/
モーツァルトの「魔笛」より「恋を知る男たちは」の主題による7つの変奏曲、他
エマニュエル・アックス(ピアノ)、ヨーヨー・マ(チェロ)
(ソニー)SICC-30581 4500円(3CD)

作品の深き解釈と深遠な響きそして静謐な表現

 アックスとヨーヨー・マがベートーヴェンのチェロ・ソナタ全集を録音したのは、1981年から85年にかけてのこと。この録音はみずみずしさと勢いに満ちたデュオで大きな話題となったが、ふたりは約40年後の2020年8月に再録音。互いに巨匠と呼ばれるようになり、円熟した演奏を聴かせているが、とりわけ印象的なのは作品に対する深き解釈と深遠な響きと随所に顔をのぞかせる静 ひつな表現。心の奥に響いてくる静けさと間が絶妙である。

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ集 Vol.2

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ集 Vol.2

●ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」/第6番 /第7番
フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)、
マルティン・ヘルムヒェン(ピアノ)
(BIS)BIS SA-2527 オープン価格(SACDハイブリッド)

ツィンマーマンの独特の歌わせ方に知的なピアノが和す

 ツィンマーマンとヘルムヒェンのベートーヴェンのソナタは、正攻法で作品と対峙する圧倒的な説得力に満ちている。ツィンマーマンの柔軟性あふれる歌謡的な旋律の歌わせ方にヘルムヒェンの知的で内省的で繊細なニュアンスに富むピアノが和すと、ソナタの奥深く潜む魅力がじわじわとあぶり出されてくる。第5番「春」の晴朗さ、第6番の変奏の妙、第7番の決然とした表現など一瞬たりとも耳が離せない。愛聴盤となる貴重な新録である。