岡本稔◎音楽評論家
アンドリス・ネルソンス(指揮)
ボストン交響楽団
(ユニバーサル)UCCG-1802/3 3780円
録音:2017~18年
名門をさらに磨き、自らの楽器として見事な演奏
ネルソンスのショスタコーヴィチ第3弾。2014年に音楽監督に就任後、この名門の個性にさらなる磨きをかけ、自らの楽器としていることが実感される見事な演奏だ。とかく難解と言われがちな交響曲第4番でもスコアの隅々まで目を行き届かせ、極めて高い完成度を実現。マーラーの影響をはじめ、多様な要素が盛り込まれた作品の全貌を客観的な姿勢で明らかにする。第11番「1905」年でも作品が持つスケールの大きさが緻密なタッチで表現されている。
●ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲/
歌劇「アイーダ」~凱旋行進曲とバレエ音楽、プッチーニ:歌劇「トスカ」~“歌に生き、恋に生き”/歌劇「ジャンニ・スキッキ」~“私のお父さん”、他
アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
ワレリー・ゲルギエフ(指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ソニー)SICC-30487 2808円
録音:2018年(ライヴ)
オペラやバレエの名旋律を鮮やかなタッチで聴かせる
ウィーンの夏の始まりを告げる風物詩となった宮殿の野外コンサートのライヴ。2018年はゲルギエフが担当した。この指揮者については時折、表現に緻密さが欠ける場合もあるが、この夜の演奏では名手ぞろいのオーケストラを手堅くまとめ上げ、オペラやバレエの名旋律を鮮やかなタッチで聴かせている。適度の野趣に富んでいるのもこの種のコンサートならでは。ゲルギエフの薫陶を受けてプリマドンナに成長したネトレプコが花を添えている。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
ポール・ルイス(ピアノ)
ダニエル・ハーディング(指揮)
スウェーデン放送交響楽団
(キングインターナショナル)KKC-5622 3240円
バラード4曲の物語性を重視したピアニズム
ポール・ルイスはシューベルト、ベートーヴェンのピアノ・ソナタで高い評価を得ているが、ブラームスもまた彼の深い思考と作品全体を俯瞰する目が備わった好演だ。協奏曲ではハーディングと息を合わせ、オーケストラとの濃密な対話を繰り広げる。特筆すべきはバラード4曲の物語性を重視したピアニズム。ルイスは歌曲の伴奏も得意とし、バラードではその資質が生かされ、4曲ともにブラームスが触発された物語へと聴き手を誘導する。
石戸谷結子◎音楽評論家
●ロジャーズ:「私のお気に入り」/マンシーニ:「ムーン・リヴァー」/
トラディショナル:「スカボロー・フェア」、他全18曲
波多野睦美(メゾ・ソプラノ)
大萩康司(ギター)
角田隆太(チェロ、編曲)
(キング)KICC-1457 3240円
波多野と大萩らによって懐かしい映画音楽の世界がよみがえる
メゾの波多野睦美、ギターの大萩康司、編曲とベースの角田隆太。この個性派3人が結集すれば、こんな素敵な、大人のラブ・ソング・アルバムが出来上がる。ちょっとジャズふうアレンジの、どこかしっとりと懐かしいソングの数々。「私のお気に入り」や「ハバネラ」、「ムーンリバー」も波多野流にアレンジされ、色っぽい。まるで自分でつま弾いているように、ギターと息がぴったりなのは、舞台で共演を重ねているから。月の輝く夜に、大人の男女に聴いて欲しいアルバム。
鈴木淳史◎音楽評論家
●ロンベルク:交響曲第4番「トルコ風」/
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」/
ハイドン:歌劇「突然の出会い」序曲
ケヴィン・グリフィス(指揮)
バーゼル・コレギウム・ムジクム
ユリア・シュレーダー(ヴァイオリン)
(CPO)555175 オープン価格
軍楽隊テイストの「トルコ風」を惜しげもなく盛り込む
「トルコ風」という標題をもつモーツァルトの協奏曲だが、その音楽の特徴はロンド楽章のエピソードで出てくるだけ。だが、ロンベルクは「トルコ風」交響曲で、第1楽章やメヌエット楽章の主題、終楽章で、太鼓やシンバル、トライアングル、ピッコロを用いて軍楽隊テイストを惜しげなく盛り込む。ただ、このアルバムを聴いてわかるのは、チョイ見せにも関らず、件のモーツァルト作品のほうにエキゾティシズムが濃厚に感じられたことか。