岡本稔◎音楽評論家
パブロ・エラス=カサド(指揮)
フライブルク・バロック・オーケストラ
(キングインターナショナル) KKC6706 3300円
ピリオド楽器の効果全開
シューベルト第2弾
エラス=カサドとフライブルク・バロック・オーケストラによるシューベルトの第2弾。先の第3番、第4番も見事だったが、ピリオド楽器によりふさわしい楽想の第5番、第7番では素晴らしい効果をあげている。19歳の時の作である第5番では純朴で繊細な持ち味をありのままに引き出し、モダン・オーケストラでは表現が難しい細やかな感情の襞(ひだ)を織りなしていく。第7番では作曲家の表現の深化を音によって余すところなく描き出す。
セミヨン・ビシュコフ(指揮)
チェコ・フィル
クリスティアーネ・カルク(ソプラノ)
エリーザベト・クールマン(アルト)
(キングインターナショナル) KKC6693 3300円
チェコ・フィル独自のマーラー演奏の伝統
どこをとっても音楽的
ビシュコフと手兵チェコ・フィルによるマーラー第3弾。マーラーと言えば、過度の共感やエキセントリックなアプローチが幅をきかせた時代があったが、ビシュコフの表現はそうしたものとは明らかに一線を画すもの。効果を狙った演出は皆無でどこをとっても音楽的であり、一定の調和が保たれている。
しかもその音楽の含蓄はきわめて深い。チェコ・フィルはマーラーの独自の演奏の伝統を持つ団体で、その持ち味も巧みに活かされている。
伊熊よし子◎音楽評論家
ベートーヴェン:《エロイカ変奏曲》/
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番
《トルコ行進曲》/ウェーベルン:変奏曲、ほか全11曲
セドリック・ティベルギアン(ピアノ)
(キングインターナショナル)KKC6676/7 4400円
※2CD、harmonia mundi原盤
主題と変奏の対比が際立つ
作曲の変奏の妙
1998年のロン=ティボー国際コンクール優勝に輝いたセドリック・ティベルギアンが、ベートーヴェンの「変奏曲集」シリーズを開始。第1弾はベートーヴェンを中心にモーツァルト、シューマン、ウェーベルンを組み合わせ、珍しい作品にも光を当てている。彼のピアノは洗練された都会的な空気と、素朴で土の香りをただよわせる側面などの対比が特徴。この変奏曲集も主題と変奏の対比が際立ち、作曲家の変奏の妙を知らしめる。
石戸谷結子◎音楽評論家
ジュリア・ブロック(テオドーラ)、ヤクブ・ヨゼフ・オルリンスキ
(ディディムス)、ジョイス・ディドナート(イレーネ)、ほか
ハリー・ビケット(指揮)コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団
ケイティ・ミッチェル(演出)
(ナクソス)NYDX50296 5500円
※BD、輸入盤、OPUS ARTE原盤、日本語字幕・解説付き
270年ぶりに復活したヘンデルのオラトリオ 手に汗握る展開
作品が初演されたコヴェント・ガーデン歌劇場で、270年ぶりに2022年2月に上演。もとはオラトリオだが、K・ミッチェルが現代のドラマとして見事に蘇らせた。フィナーレも異なるが、現代なら納得の大団円だ。イレーネ役のディドナート、ディディムス役のオルリンスキなど芸達者で歌唱力のある歌手が揃い、手に汗握るスリリングな舞台が展開される。テオドーラ役のブロック、セプティミウス役のライオンも秀逸。ビケットの指揮もヘンデルの音楽をじっくり聴かせる。
マルタン:《マリア三連画》より〈アヴェ・マリア〉/
L.ブーランジェ:《ピエ・イエズ》、ほか全20曲
アンナ・プロハスカ(ソプラノ)、
パトリツィア・コパチンスカヤ(ソロ・ヴァイオリン&リーダー)
(ナクソス)NYCX10389 3520円
※CD、輸入盤、ALPHA原盤、日本語歌詞・解説付き
プロハスカ&コパチンスカヤ
マリア~"女性的なるもの"に挑む
機智に富み、遊び心とチャレンジ精神を併せ持った、たぐいまれな2人の女性アーティスト。プロハスカとコパチンスカヤが競演して紡ぐ”女性なるもの”。なんという強烈な個性たちだろう。プロハスカは確信に満ちた歌い方で、バロック期から現代までの”マリア”を絶唱し、コパチンスカヤもまた強い母性を主張する。マルタンの《マリア三連画》も特に聴きものだが、アイスラーの《女衒(ぜげん)の歌》もカルダーラの《私の涙の海に》も感動的。女性たちの”復讐”が始まったのかも。