岡本稔◎音楽評論家
●ショスタコーヴィチ:交響曲第10番
ミヒャエル・ザンデルリンク(指揮)
ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
(ソニー)SICC-30434(2CD) 3240円
劇的な音楽の振幅を的確に描き出す指揮者の確かな手腕
クルト・ザンデルリンクの三男でドレスデン・フィルの首席指揮者をつとめるミヒャエルによるベートーヴェン/ショスタコーヴィチ・シリーズの第2弾。ベートーヴェンではピリオド・アプローチを大胆に取り入れ、音楽の構造が明確な演奏を実現。極めて清新な印象をもたらす。対するショスタコーヴィチでは、一転して暗鬱な雰囲気も醸しながらシリアスな表現を貫いている。劇的な音楽の振幅を的確に描き出すミヒャエルの手腕は確かである。
●シューベルト:交響曲第3番
イーゴリ・マルケヴィチ(指揮)
ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(Tahra)TALT-026 オープン価格
シューベルトの若い意欲があふれるているかのような音楽
1978年のライヴ。晩年のマルケヴィッチがライプチヒ・ゲヴァントハウス管を指揮した興味深い一枚だ。シューベルトの交響曲では、オーケストラのドイツ的な味わいを活かしながらも明 晰 な感覚を保ち、音楽には 瑞 々しさがあふれている。堂々とした威容には作曲者の若い意欲があふれているようだ。チャイコフスキーでもシャープな感性が明確に聴きとれる。音楽の細部まで神経を行き届かせるとともに、民族的な味わいも併せ持つ演奏を実現。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
クリストフ・ルセ(チェンバロ)
(キングインターナショナル)KKC-5757(2CD) 4536円
バッハの意図を忠実に弾き、流れる水のように清涼
ルセのチェンバロの響きは「自然体」ということばが当てはまる。すべてがあるべきところに存在し、誇張も作為的な面もまるでない。バッハの意図した面に忠実に弾き進めているのだが、堅苦しくも優等生的でもなく、流れる水のように透明で清涼。リズム、テンポ、アーティキュレーション、アッチェレランドから微妙なルバートまで、耳に心地よく響く。ヴェルサイユ宮殿所蔵のルッカース・オリジナルの妙なる音色が、心にゆったりと染み込む。
石戸谷結子◎音楽評論家
エリカ・グリマルディ(ソプラノ)
ダニエラ・バルチェッローナ(アルト)
フランチェスコ・メーリ(テノール)
ミケレ・ペルトゥージ(バス)
ジャナンドレア・ノセダ(指揮)
ロンドン響
ロンドン響合唱団
(キングインターナショナル)LSO-0800 オープンプライス
※輸入盤、LSO原盤
ソリストをすべてイタリア人歌手で固めた劇的で堂々たる演奏
2016年9月に演奏されたLSOのライヴ。広いバービカン・センターならではの、壮大なスケール感のある堂々とした劇的な演奏。ソリストはすべてイタリア人の名歌手を揃えての、ノセダならではのこだわりのキャストだ。「怒りの日」のダイナミックな表現、「くすしきラッパの音」の金管ののびのある響き。「我は嘆く」のメーリの輝かしい声、「ラクリモーザ」のバルチェッローナの落ち着いた声も心に 沁 みる。ペルトゥージの柔らかいバスの声がひときわ印象的。
鈴木淳史◎音楽評論家
●シューベルト:交響曲第7番「未完成」/
ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」
セルジュ・チェリビダッケ(指揮)
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(Warner)9305211237 オープン価格
バランスの確かさが際立ち「新世界」の世界観が変わる
儚 げな質感ながら、ときおり強い響きで 杭 を打ち込むシューベルトも悪くないが、やはりドヴォルザークが圧倒的だ。海賊盤時代から名盤の誉れ高い1985年の演奏だが、ヘラクレス・ザールでの録音ということも手伝い、素晴らしい音質で登場した。全楽章を通し、木管を中心としたバランスの確かさが際立つ。そして、強弱と緩急の綾、室内楽的なアンサンブルが時間を超越する第2楽章を聴けば、「新世界」の世界観が変わること間違いなし。