ピアノ・デュオの世界にいざなう坂本彩(左)、リサ
シューベルトの連弾作品、
スメタナ「モルダウ」…
デュオ作品 広大な世界
藤盛一朗◎本誌編集
音楽の新しい扉を開けてもらえれば──そんな思いで坂本彩、坂本リサがピアノ・デュオの道を歩んでいる。2021年のミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ・デュオ部門で日本人として初の第3位に。デビューアルバム「Duettist」がこの11月にリリースされた。リサイタル活動にも力が入る。
2人は福岡市出身。彩が三つ年上の姉妹だ。東京藝大音楽研究科修士課程ピアノ科で研さんを積んだ経歴は共通するが、留学まではそれぞれふつうにソロのピアノを学んでいた。「もともとデュオをしてみたらと言われることはあっても、息抜きに弾く程度でした」とリサ。彩は「ラベック姉妹への憧れはありました。2人で留学したいと言ったら、ともに師事した伊藤恵先生には当初、『そこまでしなくても』と反対されました」
ロストックに留学
性格は真逆だと言う。「やりたいことも違う。ただ、デュオで弾くと、凹凸がぴたっとはまるのです」とリサ。そのデュオの先達として、くっきり姿を意識したのがドイツのステンツル兄弟だった。シューベルトやレーガーなど、広大なデュオの世界の真ん中にいた。兄弟は、デュオの専門的な教育を行うドイツのロストック音楽・演劇大学で教えている。2019年に同大のピアノ・デュオ科修士課程に進むことに迷いはなかった。
無数といえるソロのリサイタルに比べれば、デュオの演奏会は少ない。クラシック愛好家が名曲をすぐ思い浮かべられるほど身近でもない。「シューベルトやブラームス…。オリジナル作品はたくさんあります」と彩。「特にシューベルトはたくさん。後期の《ロンド》、《幻想曲》、《人生の嵐》は奥が深くて、弾いていると涙が出そうになります」とリサは話す。
初アルバムリリース
デビュー・アルバムの初めの曲は、ラヴェルの《マ・メール・ロワ》。管弦楽作品の編曲かと思えば、原曲が連弾。こちらがオリジナルなのだった。サン=サーンスの《ベートーヴェンの主題による変奏曲》、レーガーの《ベートーヴェンの主題による変奏曲とフーガ》はともに大きな聴きごたえがある。もともとシンフォニックなピアノの弾き手が2人になることにより、表現の幅と奥行きが増すと感じられる。
「レーガーは一番好きな曲です」と彩。「音数が多く、表現は無限大。かめばかむほど味があり、演奏するたびに解釈が変わります」。東京のHakujuホールでは、生誕200年のスメタナの名曲、《わが祖国》から「モルダウ」を取り上げる。「連弾ものは、スメタナ本人の編曲なのです」とほほ笑むリサ。最後に弾くブラームスの《ハイドンの主題による変奏曲》は、オーケストラ版より先に作曲された。
《ドイツ・レクイエム》も
過去にはブラームスの《ドイツ・レクイエム》を弾いた。この曲の連弾版も、作曲者のオリジナル。「深い曲です。ありがとうという思いが湧いて涙が出ました」とリサ。彩は「邦人作品の発信にも力を入れたい」と意欲をみせる。
ふだんの練習では、「互いに譲れなくて、2小節に3時間かけることもある」とリサ。彩は「演奏が縮こまらないように、相談しつつもいかに自由に弾くか」を大切にしているという。プリモと呼ばれる上声部はリサ。セコンドは彩が弾く。「姉に支えられてこそ、自由に弾けます」(リサ)。
デュオだからこそ、の魅力がある。「2人の人間がいる。音で会話し、いろんなことが湧いてくる。演奏の可能性が無限に広がります」とリサ。彩は「小さなオーケストラ。ソロとも、本物のオーケストラとも違う。ただの足し算ではありません」と話す。作品数の多いシューベルトをはじめ、たくさんのデュオの曲の素晴らしさを聴衆に届けられたらと願っている。
Duettist
ピアノ:坂本彩 、 坂本リサ
ラヴェル:《マ・メール・ロワ》
フォーレ:組曲《ドリー》
サン=サーンス:ベートーヴェンの主題による変奏曲 作品35
レーガー:ベートーヴェンの主題による変奏曲とフーガ 作品86
(フォンテック) FOCD9909
坂本彩、リサ デュオリサイタル
11月22日 (金) 18:30 [場所]Hakuju Hall(東京)
"Duettist"発売記念コンサート
ルトスワフスキ:パガニーニの主題による変奏曲
フォーレ:組曲《ドリー》作品56
スメタナ:連作交響詩《我が祖国》より 第2曲 「モルダウ」
ブラームス:《ハイドンの主題による変奏曲》 作品56b
問い合わせ:ハクジュ東京 坂本姉妹応援部 070-1318-2444
12月15日 (日) 10:30〜 [場所]浜離宮朝日ホール
室内楽フェスティバル AGIO
サン=サーンス:動物の謝肉祭
(共演: 郷古廉、戸原直、横溝耕一、宮田大、谷口拓史、梶川真歩、コハーン・イシュトヴァーン、竹島悟史)
問い合わせ:Bunkamura 03-3477-3244
2025年2月27日 (木) 11:30〜 [場所]フィリアホール(横浜市)
ランチタイム・コンサート・シリーズ
ドビュッシー:小組曲
プーランク:《シテール島への船出》
デュカス:交響詩《魔法使いの弟子》
ラヴェル:スペイン狂詩曲
問い合わせ:フィリアホールチケットセンター 045-982-9999