©飯島隆
がん治療のための療養から指揮活動を再開
大阪フィルのブラームス・チクルスが進行中
「楽員や合唱、観客からエネルギーをいただいた」
前立腺がんの治療で5月20日から療養していたが、7月27、29日に正指揮者を務めるNHK交響楽団の一般非公開の演奏会で活動を再開した。
「久しぶりの指揮でしたが、特にベートーヴェン交響曲第5番は、すごい作品とまた向き合えた喜びは格別でした。演奏後に皆さんが『嬉しくてしょうがないというふうに見えた』と言ってくださいました」
8月8日には桂冠指揮者を務めるBBCウェールズ・ナショナル管とともに「BBCプロムス」に出演、武満徹の「トゥイル・バイ・トワイライト」、ワトキンスの「ザ・ムーン」世界初演など意欲的なプログラムを指揮した。
「ここに出ることはオアシスのようなもので、毎回、お客さんからたくさんのエネルギーをいただきます。武満さんの音楽は古典の作曲家同様に英国でも受け入れられていて嬉しい。他の3曲は250人もの合唱との共演になりました」
音楽監督の大阪フィルへの復帰は、ブラームス・チクルスの9月の第3回となる。第2回は療養のため10月に延期されたが、5月の第1回は好評を得た。
「治療が始まっていたこともあり心配でしたが、楽員や合唱、そしてお客様からパワーをいただきました。『埋葬の歌』では、入魂の合唱に感じ入りました。すでに何度、指揮したのかもわからない第1番ですが、改めて、ベートーヴェンを意識してそれに匹敵するものを描きたかったブラームスの心意気を感じました」
昨年のベートーヴェン・チクルスでも満場の拍手を受けた。
©飯島隆
以降も交響曲と合唱を組み合わせた選曲が興味深い。
「第3回は、47歳から50歳の作品で『悲劇的序曲』の内面の充実、そして親友の死を悲しんでの『哀悼の歌』の美しさが素晴らしい。交響曲第3番は私が初めてBBCウェールズ・ナショナル管と仕事をした作品で、この時の演奏によって首席指揮者へのオファーがきました」
10月の第2回は交響曲第2番を中心としたプログラム。11月の交響曲第4番でチクルスはフィナーレを迎える。
「30歳代半ばの2つの合唱曲は、シューマンの遺児への恋が叶わなかった心中が傑作『アルト・ラプソディ』を生み、“わたしたちに安らぎはない”という言葉が多用されます。でも最後は安らぎをもたらし、『ドイツ・レクイエム』と同じ死生観を感じます。第2番は桐朋学園で最後に斎藤秀雄先生の教えを受けた曲です。4番は、さすが最後の交響曲で、内面の充実ぶりは目を見張ります。フィナーレのパッサカリアは最高の技法を凝らしていて、フルトヴェングラーの凄まじいクライマックスを築きあげた映像が最高と感じています」
1947年、神奈川県生まれ。桐朋学園大学、ウィーン音楽大学で指揮を学ぶ。71年、NHK交響楽団を指揮してデビュー。74年、東京フィル常任指揮者、92年から桂冠指揮者。81年、札幌響正指揮者。92年、読売日響常任指揮者、98年から名誉客演指揮者。87年、BBCウェールズ響首席指揮者、2003年より名誉指揮者、10年よりNHK交響楽団正指揮者、10年、新国立劇場オペラ部門芸術監督などを歴任。17年4月より大阪フィル・ミュージック・アドヴァイザー、18年4月より音楽監督を務める。
会場はいずれもザ・シンフォニーホール(大阪)
ブラームス・チクルスⅢ
9月4日(水) 19:00
悲劇的序曲、哀悼の歌、交響曲第3番
大阪フィルハーモニー合唱団
ブラームス・チクルスⅡ
10月2日(水) 19:00 (公演日程変更)
アルト・ラプソディ、運命の歌、交響曲第2番
清水華澄(アルト)
大阪フィルハーモニー合唱団
ブラームス・チクルスⅣ
11月20日(水) 19:00
大学祝典序曲、運命の女神の歌、交響曲第4番
大阪フィルハーモニー合唱団
■問い合わせ:大阪フィル・チケットセンター 電話06-6656-4890