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vol.142 指揮者 尾高忠明

尾高忠明
©K.Miura

朝比奈隆と金字塔 大阪フィルとの共演は喜び

「今は感性を大事に、自分の心に聞こえるテンポで指揮」

 尾高忠明が、ブルックナー指揮者として存在感を高めている。朝比奈時代からの伝統を誇る大阪フィルの音楽監督として、東京定期では3年連続でブルックナー作品を演奏。交響曲第7番などのライブCDも高い評価を得ている。1月22日の東京定期の終演後、「ブルックナーと大阪フィルのことなら、いつでもお話します」と笑顔をみせた尾高だが、肺炎のため2月の札響定期を降板。書面となったインタビューでは、4月27日に予定される大フィルとの交響曲第9番の指揮への強い思いをうかがわせた。

藤盛一朗◎本誌編集


──ブルックナーの音楽に惹かれたのはいつのころだったでしょうか? 井上道義さんは、尾高さんが桐朋学園の教室のピアノでブルックナーの交響曲を演奏していた思い出を語っていました。父の尚忠(ひさただ)さんは1950年、日響(現・N響)定期で交響曲第9番を指揮しています。

 子供の頃から父親の最後の定期公演が、ブルックナー9番だと聞かされていました。しかし実際に聴く機会はないまま、桐朋学園に入学しました。そして出会ったのが、カール・シューリヒトのウィーン・フィルとの9番の名盤です。背筋に電光が走りました。

ドイツとオーストリアの違い

──桐朋卒業後にはウィーンに留学されました。ブルックナー演奏の本場です。

 留学する前以上に、ドイツとオーストリアの違いがはっきり認識されました。自然、風土、お酒、食べ物、人々の考え方など…。
 また、(リンツ郊外の)サンクトフローリアンの修道院を訪れた時の感慨から大きな影響を受けました。ウィーンの飲み屋で、評論家の野村光一先生と「ブルックナーとマーラー論」を夜を徹してお話しさせていただいたのも良い思い出です。

神へ仕える心と田舎舞踊

尾高忠明
©K.Miura

──ブルックナーの音楽の魅力について、考えをお聞かせください。

 オーストリアの自然、崇高なまでの神へ仕える心、オーストリアの田舎舞踊、年齢を重ねても持ち続けた若い女性への恋心…。これらが一体になって類まれな音楽が残されたことです。

──インテンポを重視するか、アゴーギク(テンポの揺れ)やゲネラルパウゼ(全楽器の休止)の扱いなど、ブルックナーの交響曲の指揮について、どのような基本的な考えをお持ちでしょうか?

 彼の作品はどれを取っても問題がたくさん潜んでいます。その一つがテンポの指示です。どうしても理屈に合わないところ、またどちらが本当か分からないところ、たくさんあります。
 自分が若い頃は、サヴァリッシュ先生などの教えを一番に考え、なるべく譜面通りで演奏してきました。ただ最近は、もっと自分の感性を大事にしようと思い出しました。自分の心に聞こえないテンポでは演奏しないようになりました。
 ゲネラルパウゼもそのホールの残響、ホール全体の規模、などなどで変化するものと思っています。ロンドンのウェストミンスター寺院で9番を演奏した時には、心からゲネラルパウゼを堪能しました。

今までと違う面に驚き

──朝比奈隆さんからの時代を通じ、大阪フィルは、日本の楽団の中でももっとも精力的にブルックナー演奏に取り組んできたオーケストラです。N響や札響などさまざまなオーケストラとブルックナーの交響曲を演奏してこられた尾高さんは今、大フィル固有の響きやブルックナー演奏の伝統をどのように感じておられるでしょうか?

 大阪フィルは朝比奈先生とブルックナー演奏の金字塔を打ち立てられました。その自負はメンバーにも強く残っています。朝比奈先生を知らないメンバーでもそのDNAを感じています。私自身ももちろん強く感じて、このオーケストラでブルックナーを演奏できる喜びにいつも感謝しています。今までに演奏してきたブルックナーの作品が大阪フィルとの出会いによって違う面が聞こえてくるのには、僕自身びっくりしています。

──ブルックナー生誕200年の今年、比較的演奏機会の少ない交響曲第6番を取り上げた狙いや、この曲の魅力についてお考えを教えてください。

伊藤恵

 この曲の演奏は大変難しく、第1楽章は指揮者泣かせの難しさです。そのためにたくさんの第6番の演奏は必要以上に遅いテンポになっています。その様なテンポだと冗長な楽章になってしまいます。
 実はこの交響曲の各楽章が素晴らしいバランスで作曲されている事は明白です。自分としては全体を見通した時の構成感が大好きです。ただ、前から遅いテンポの演奏に親しんだ方には、尾高の演奏はハヤイナ!と感じた方が多い事でしょう。

「9番」は指揮者への道の第一歩

──大阪フィルとの4月27日の交響曲第9番(兵庫県立芸術文化センター)も、名演が期待されます。ブルックナーの白鳥の歌である「9番」について今、お感じになっていることを教えてください。

 最初に述べたように、この曲がぼくの指揮者への道の第一歩です。指揮者デビューの時に、「ブルックナー9番!」と言いましたが受け入れられませんでした。数年経ってやっと東京フィルと演奏しました。評論家の宇野功芳先生が絶賛してくださいましたが、自分では到底太刀打ちできる曲ではないと落ち込んだのを思い出します。
 わが恩師、齋藤秀雄先生と奇しくも同年齢で亡くなられたブルックナー。この偉大なお二人の年齢を超えた今も、畏敬の念でいっぱいです。