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vol.138 ヴァイオリン 小川響子

チェロ シェク・カネー=メイソン
「ベルリン・フィルでは、これで合うのかと思うくらい、
奏者がやりたいことをやる」と語る小川響子

ベルリン・フィルで研鑽、樫本大進に師事

小川響子、名古屋フィルコンサートマスターに

文 藤盛一朗◎本誌編集 

 ベルリン・フィルは、世界的楽団として演奏するだけではない。オーケストラ奏者を育成する「カラヤン・アカデミー」を備え、各国のオーケストラに人材を送り出してきた。小川響子も、カラヤン・アカデミーで学んだ1人。ベルリン・フィル第1コンサートマスター、樫本大進の薫陶を受け、ベルリン・フィルへの出演を重ねた。そして今、名古屋フィルコンサートマスターとして、新たな一歩を踏み出そうとしている。

藝大から派遣の第1期生

 東京藝大は、ベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミーとの人材育成派遣協定を結び、小川はその第1期生。「学内で試験を受けない? と言われました。試験をするのは、樫本さん。東京藝大にいらした樫本さんの前で、モーツァルトやロマン派の作曲家の作品、チャイコフスキーの協奏曲の提示部などを弾きました。演奏はほんの少しだけでした。2018年6月のことです」
 アカデミー生の活動は①ベルリン・フィルの演奏会に乗る(出演する)②年6回のアカデミー生の公演に出演する③楽員のレッスンを受ける──の3本柱。小川は18年10月~21年4月まで在籍した。

音が濃密で背中から伝わる

 演奏会では、世界的マエストロの指揮でさまざまな体験を重ねた。「ヤンソンスのR・シュトラウスの《ツァラトゥストラはかく語りき》では、指揮は大振りではないのに、全部伝わりました」。バレンボイムの指揮ではシューマンの交響曲第4番やベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(ピアノ:マリア・ジョアン・ピリス)を弾いた。「弓を当てる場所や、フィンガリングまで指定してくる。違うと怒る。楽員同士で『また怒っていたね』と」
 レッスンは樫本から受けた。「なんでも持ってきて、と言われ、バッハや、いろいろなソナタ、トリオも。ベートーヴェンの《ミサ・ソレムニス》のソロの部分も見てもらいました」
 樫本は、子どものころからの憧れのヴァイオリニスト。「音色が濃密で、ブラームスの演奏がとりわけ好き。それでも本当のすごさが分かったのは、藝大に入ってからです。コンマスとしては、背中から伝わる人。室内楽もソロも並行して行ってどれも素晴らしい。目標です」

≪悲愴≫にコンマスとして出演

 ミュンヘン国際コンクールで優勝した葵トリオの一員として活動する一方、ベルリン・フィルでの体験からオーケストラで弾きたい思いが募っていた。2022年12月に名古屋フィルのチャイコフスキーの交響曲第6番《悲愴》などからなる演奏会にコンマスとして出演。23年2月の音楽監督、川瀬賢太郎指揮演奏会ではマーラーの交響曲第4番などをリードした。「川瀬さんに『すぐにでも来て』と言われました」
 カラヤン・アカデミー以前は、東京フィルでフォアシュピーラーを務めた経験もある。「指揮者の指示を待ち、とんがったことはしないのが日本のオーケストラ。ベルリン・フィルでは、これで合うのだろうかと思うくらい、各奏者が自分のやりたいことをやる。指揮者は抑えや調整役でした」。コンサートマスター就任は、4月1日。名古屋に新風が吹く。


Ogawa Kyoko

東京藝術大学音楽学部弦楽科卒、同大学院修士課程を首席で修了。第10回東京音楽コンクール弦楽部門第1位、聴衆賞を受賞。葵トリオのメンバーとして、2018年ミュンヘン国際音楽コンクールで日本人団体初の優勝(ピアノ三重奏)。2018年10月から21年4月までベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミーに在籍。ベルリン・フィルの公演に数多く出演、日本ツアーにも帯同した。樫本大進氏を中心に楽団員による室内楽のレッスン、アカデミー生でのオーケストラでコンサートマスターを務めるなど、多くの経験を積んだ。現在、葵トリオの他、室内楽奏者、ゲストコンサートマスターなど国内外で活動している。24年4月より名古屋フィルコンサートマスターに就任する。