パシフィックフィルハーモニア東京の定期で
ツェムリンスキーの「抒情交響曲」を歌う
「今の歌い手としての僕の全てを聴いてほしい」
2019年のセイジ・オザワ 松本フェスティバルの「エフゲニー・オネーギン」のタイトルロールで日本オペラ・デビューして以来、あっという間にスター街道を駆け上っている。2月には新国立劇場に初登場、「愛の妙薬」のベルコーレで聴衆を魅了。5月にはヒューストン・グランド・オペラにデビュー、「トゥーランドット」のピンを6回歌ってきたばかり。9月も読売日響でシュニーダー「聖ヨハネの黙示録」と「ドイツ・レクイエム」などスケジュールはびっしり。
「初めての作品や、前の作品と言語が違うものなど楽譜を読むのに時間がかかります。オペラならト書きから入念に読みたいのです。早く覚えることもできますが、時間をかけた方が、内容が深まります。だからステージ上でリラックスできるのです。ロシア語などしゃべることはできなくてもオペラはできますが、口語のニュアンスを知っているのと知らないのではまったく違います。フレージングなどに表れます。声が良いだけではだめなのです」
セイジ・オザワ松本フェスティバルでエフゲニー・
オネーギンを歌う(右) ©大久保道治/2019OMF
7月のパシフィックフィルハーモニア東京の公演ではツェムリンスキーの「抒情交響曲」を歌う。これは1922年に作曲され、インドのタゴールの詩が使われている。中国の詩に曲付けされたマーラーの「大地の歌」と比較される。
「その時、作曲家がどのような動きをしたかなど音楽史が好きなのです。ツェムリンスキーはマーラーより11歳下ですが、同時代を生きています。この作品を残すことで作曲家は何をしたかったのか、と考えます。ドラマチックなところ、抒情的なところ、いろいろな要素が詰まっている曲です。『抒情交響曲』は飯森さんが音楽監督を務めるいずみシンフォニエッタ大阪で、室内管弦楽版で歌っています。今度はフルオーケストラですから楽しみです」
同曲を共演するソプラノは大学の先輩の森谷真理。アメリカで活躍していた彼女は目標の歌手で、アメリカに留学するきっかけになったという。
現在36歳。慎重にレパートリーを選び活動している。
「ぜいたくな願望なのですが、常に遅咲きでありたいと思うのです。若くして、簡単に成功を求める傾向がありますが、声楽はマラソン、長距離走なので、年齢にあった役を選びたいのです。今、これを歌っても大丈夫なのか、と考えます。機会を逃すことになってもそうしたい。周りに理解してもらって、ありがたいです。ツェムリンスキーは、今ある僕の姿を見てほしい、歌い手のすべてを出すのでそれを聴いてほしいと思います」
ジュリアード音楽院卒。シカゴ・リリック歌劇場で研鑽。2019年「エフゲニー・オネーギン」で日本オペラ・デビュー後、国内外にて「フィデリオ」、「リナルド」、「ローエングリン」、「愛の妙薬」、「電話」、「カルメン」、「道化師」、「トゥーランドット」等に出演。10月にはゲッツェル指揮「椿姫」、小林道夫とのリート・リサイタル、沖澤のどか指揮新日本フィルとのマーラー「亡き子を偲ぶ歌」などを予定。五島記念文化賞オペラ新人賞、日本製鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞。
パシフィックフィルハーモニア東京
第150回定期演奏会
7月30日(土)14:00
東京芸術劇場コンサートホール
指揮:飯森範親
ソプラノ:森谷真理
バリトン:大西宇宙
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲と愛の死」
ベルク:抒情組曲(T.ファーベイによる弦楽オーケストラ編)
ツェムリンスキー:抒情交響曲
■問い合わせ:チケットオフィス TEL:03-5726-9008