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vol.97 ピアノ 若林顕

ピアノ 若林顕

横浜みなとみらいホールの2つの第九演奏会
リスト編曲ベートーヴェンの第九を聴かせる
「ピアノで表現できることを大事にしたい」

 「コロナで演奏会が延期になったため落ち着いた練習をしていました。普段、時間がなくてできなかったことを、スケジュールを立てて練習ができました。新しいレパートリーの開拓やじっくり取り組みたかったことも多く、ハーモニー、フレーズの作り方など大事な新しい発見も多々ありました」と話す。
 本格的なヴィルトゥオーゾ・ピアニストである若林は、年間に行うコンサートを絞っている。
 「作品は寝かす時間、熟成する期間が必要で、回数を多くしすぎることに注意しています。日本は全体的にテンポが速いと思います。演奏家として成熟していくため、さらによい演奏を目指していくことを考えると、とても重要なことです。静かな時間が必要なのです。これができるかできないか、大きな分かれ道です」
 「驚がくの第九そして革新の第九」と題された横浜みなとみらいホールの演奏会で、リスト編曲のベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」を演奏する。1時間以上ある大曲で、リストの編曲だけに技術的にも難しいが、10年以上前にCDも発売しており、演奏回数も多い。

ピアノ 若林顕
©Wataru Nishida

 「リストはベートーヴェンをすごく尊敬していました。第九を忠実にピアノに置き換えています。それは音楽が伝わることを大事にした編曲になっています。3楽章はベートーヴェンの後期のソナタに近い編曲で、ピアニストとして表現ができます。4楽章は合唱が聴こえてくるようです。ピアノで聴くと、第九の壮大なスケールが分かります。私も弾くたびに新たな発見があります。オーケストラで聴けないところも聴いてもらいたいです」
 若林は、第九をただ演奏するだけに終わらせないように、と自分を戒める言葉をつなげる。
 「最初は第九をピアノで弾くことに、えっと思いました。しかし、決して演奏するだけ、達成することだけが目的ではないのです。ピアノの宿命で、鍵盤を押すと音はすぐ減衰します。だから音と音の間のイメージ、空間性がすごく重要です。ホールの空間性も駆使します。頑張って弾くことで終わってしまいがちですが、内容のある演奏を目指したいのです。ピアノで表現できることを大事にしなくてはいけないと思います。それがピアノの、ピアニストの醍醐味です」

Akira Wakabayashi

1965年生まれ。東京藝術大学で田村宏に、ザルツブルク・モーツァルテウム大学、ベルリン芸術大学大学院でハンス・ライグラフに師事。20歳でブゾーニ国際ピアノ・コンクール、22歳でエリーザベト王妃国際コンクールで2位。2002年、カーネギー・ホールでリサイタル・デビュー。3回目となる「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲シリーズ」を2017年に完結。18年より「ショパン:ピアノ作品全曲シリーズ」を新たに開始。今年はドイツでレコーディングが予定されている。

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■コンサート

驚愕の第九
ピアノ第九演奏会

10月5日(月) 14:00

ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第9番「合唱付き」
若林顕(ピアノ)
横浜みなとみらいホール

■問い合わせ:横浜みなとみらいホールチケットセンター TEL:045-682-2000