世界最高峰のリートデュオが東京文化会館で公演
リスト、ブラームス、R・シュトラウスを披露
「歌手を見て、言葉の動きを楽しむ。それで十分」
ハルトムート・ヘルと1972年から40年以上、リートデュオを組み第一線で活躍してきた。
「武蔵野音大にいたとき、リート・オラトリオ研究会に入り、リートの良さを多田光子先生に習いました。ドイツに留学してハルトムート・ヘルに出会ったのがリートに取り組むきっかけです。文学に興味がないピアニストでは、リートが浅くなります」と話す。
多い年には年間120回もコンサートをしたが、今は年に30回ほど。また、カールスルーエ音楽大学リート科教授として、歌手とピアニストを教えている。
「ピアノと歌を一緒に教えるドイツで初めての試みです。たいていはピアニストがリートを教えています。以前は声楽科に入りたいというとオペラ歌手になるためでしたが、最近はリートを歌いたいと受験する人も増え、うれしいです。確かにオペラを歌わないと食べていけません。しかし、オペラが嫌になってリートに戻ってくる人もいます」
歌手も霞を食べて生きて行くわけにはいかない。しかし、声楽家はお金を稼ぐためだけの理由で歌っているわけではない。
「歌手が商品の一つになってしまっています。商品だからすぐに取り替えられてしまうのです。私は、自分がしていることを深めたい、自分を高めたい、と歌ってきました。芸術をすることは自分を磨くことです」
来年3月、東京文化会館で演奏会を行う。プログラムは、ブラームスとリスト、リヒャルト・シュトラウス。
ハルトムート・ヘルと白井光子
© 三好英輔
「リストは日本で歌っていなかったので、やりたかったのです。リストの曲は音楽の空間が大きく、すごく高い所を見ています。ブラームスは音楽の流れが幅広い。シュトラウスは音楽の空間が大きいだけでなく繊細です」
フィッシャー=ディースカウらスターがいなくなり、いま日本でドイツ・リートの演奏は盛んとはいえない。というのもドイツ・リートを聴くにはドイツ語が分からないと、なかなか難しいからだろう。しかし、白井はドイツ語の翻訳の歌詞をプログラムに載せることなく、演奏会を続けている。
「まず、歌を聴いていただきたい。歌手の目の色が変わったり、姿勢が変化したりするのを見ていただいて、後で歌詞を読み、だからこうだったんだね、と理解してよいのです。アメリカに行ってもフランスに行っても聴衆に歌が届くのは感情があるからです。対訳を見ながら無理に分かろうとしなくてよいのです。ドイツ語の発音の快さがあり、アルファベット順に流れがあり、言葉自体に動きがあります。そうしたことを楽しんでもらえれば十分です」
武蔵野音大卒。1972年、シュトゥットガルト音楽大学在学中に、ピアノのハルトムート・ヘルとデュオを結成。73年フーゴー・ヴォルフ歌曲コンクール、74年ロベルト・シューマン・コンクールなど数多くのコンクールで優勝。82年、シューマンの生地ツヴィカウ市よりシューマン賞を受賞。フランクフルト音大などを経てカールスルーエ音大リート科教授。国立音大招聘教授も務める。2005年度第56回芸術選奨文部科学大臣賞、08年に紫綬褒章、10年にはドイツ連邦共和国功労十字小綬章を受章。
Music Weeks in TOKYO 2014
プラチナ・シリーズ第5回
白井光子&ハルトムート・ヘル
~世界最高峰のリートデュオ~
2015年3月6日(金)19:00
東京文化会館小ホール
ブラームス:ああ、この眼差しをそらして/昔の恋
リスト:ぼくの歌には毒がある/御身、天から来たり
R.シュトラウス:私の頭上であなたの黒髪を/帰郷、他
電話:03-5685-0650