©Akira Muto
ベートーヴェンのピアノ協奏曲2曲を1晩で
「皇帝」とヴァイオリン協奏曲の編曲版を演奏
「音の純度、密度、弾き手のセンスが求められます」
5月に行う予定だった演奏会が延期になり、やっと9月に開催される。今年はベートーヴェン生誕250周年、ベートーヴェンの2大ピアノ協奏曲を弾く。
「通常、演奏会で協奏曲は1曲のみですが、2018年、CDデビュー25周年のコンサートで、モーツァルトとグリーグ、2曲の協奏曲を弾きました。このときいつもとは違う心地良さを感じました。とくに後半は、いつもの緊張感プラス何か解放されたような感覚があり、弾き進むにつれてより構えずに俯瞰することができて、良い集中力を持って音楽に入り込めました」
1曲はピアノ協奏曲第5番「皇帝」というのは分かるが、もう1曲はピアノ協奏曲ニ長調作品61a。これはベートーヴェンの傑作、ヴァイオリン協奏曲を編曲したもの。親友夫妻への結婚祝いに贈られたという。
「昔から家で聴くのはピアノよりもヴァイオリンが多く、小さい頃から、このヴァイオリン協奏曲が好きで、いつか機会があれば弾いてみたいと思っていました。タイトルがない編曲版のせいでしょうか、もっと弾かれてもいい作品だと思います」
2曲ともよく知られた旋律で、40分を超える大曲。
©Akira Muto
「弾き手にとっては対極です。作品61aはヴァイオリン協奏曲を編曲していますから、他のピアノ協奏曲とはまったく違い、右手はヴァイオリンの単旋律、左手は基本的にそれを補うように書かれています。いかにピアノ協奏曲として生命力を持たせるか、左手パート、フレージング、ペダリングなどピアニストの力量とセンスが表れます。減衰する1音1音の純度と密度が求められ集中度が高まります。音数が多いロマン派以降のものとモーツァルトを弾くのでは、どちらが怖いかというとモーツァルトです。シンプルなほど難しいのです」
ピアノ協奏曲第5番「皇帝」の出版は1810年、初演は11年、ベートーヴェンのパトロンの1人、ルドルフ大公の独奏で行われた。すでにベートーヴェンの耳はほとんど聞こえなくなっていた。
「皇帝はベートーヴェンの絶頂期に書かれた作品で、希望にあふれています。難聴になり、抱える苦悩を乗り越えてもう1回出発する。湧き上がるエネルギーに人生の肯定感が表れています。絶望や葛藤を経なければ、ああいう曲はできなかったと思います。初演は自身で弾きませんでしたが、逆に内面ではより自由な世界が広がっていたのではないでしょうか」
作品61aが演奏されることはあまりなく、大曲2曲を一度に聴けるめったにない機会。
東京芸術大学附属高校在学中、17歳で日本音楽コンクール第1位。東京芸術大学を経て、ベルリン芸術大学および同大学院を首席卒業。シュナーベル・コンクール第1位、ミュンヘン国際音楽コンクール第3位、ショパン国際ピアノコンクール最優秀演奏賞。バイエルン放送響、バンベルク響、モスクワ・フィル、ワルシャワ・フィル、アルバン・ベルク四重奏団、カルミナ四重奏団など多数共演。CDは30枚以上がリリースされている。「シューベルト・プラス」が現在進行中。桐朋学園大学院大学特任教授。
http://www.kyoko-tabe.com
9月1日(火)19:00 サントリーホール
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲ニ長調
ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
飯森範親(指揮)、東京交響楽団
12月16日(水)19:00 浜離宮朝日ホール
シューベルト:アダージョ
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30~32番
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