©二石友希
神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト
「メモリー・オブ・ゼロ」を演出、3月に公演
「ダンスでも演劇でもなく1つの作品になれば」
作曲家の一柳
白井は「一柳さんからダンスに焦点を当ててみたい、という提案があり、振付は遠藤康行さんにお願いすることになりました。2部構成で1部は身体の歴史をダンスで、2部は小説を舞踊化します。演劇的要素の強いダンスという観点から、構成台本を作りました」と話す。
一柳は1950年代、アメリカでジョン・ケージと共にモダン・ダンスの草分け、カニングハムらと前衛的音楽活動を展開した。遠藤は横浜バレエフェスティバルの芸術監督を務めている。
公演は2部構成で、舞台上に特設席を設置するステージ・オン・ステージで上演される。第1部は「身体の記憶」と題し、クラシック・バレエからモダン・ダンス、そしてコンテンポラリーへというダンスの変遷をたどる。第2部はアメリカの作家、ポール・オースターの小説「最後の物たちの国で」をダンスで表現する。この小説の主人公アンナは、行方不明の兄を捜して乗りこんだ国で、盗みや殺人が犯罪ではなくなった悪夢のような状況に置かれる。
「KAATでも、今までダンスに力点を置いてきました。ダンスも学問と同じように過去の叡智が蓄積され成り立っています。その積み重ねを見せることができないだろうか、と遠藤さんに相談しました。オースターの作品は、ダンスのようでもあるし、演劇のようでもあるかも知れません。この作品を選んだのは、今、日本は戦後から築き上げてきた価値や概念が崩壊し始めていると感じているからです。もし、国や街が崩壊して、自分を成り立たせる全ての物を失ったとしても、私たちの中に最後に残るものは記憶ではないか。その記憶さえあれば、立ち続ける希望になるのではないかと」
音楽は、一柳の交響曲第8番「リヴェレーション2011」、「タイム・シークエンス」などが使われる。白井は一柳のオペラ「愛の白夜」の演出もしている。
「一柳さんからは、自分の作品を自由に使ってくださいと言っていただいています。一柳さんの作品に、私はいつもそれまで味わったことのない感情を揺さぶられてきました」
「メモリー・オブ・ゼロ」は「ゼロの記憶」の意味。
「ダンスはどこから始まったのか、どうして人は踊るのか、そして何故人は文学を必要とするのか、出発点の記憶とは何か。ゼロから一歩踏み出すための作品にできたら。そしてこの作品はどこに行くか分からないから面白いのです。ダンスでも演劇でもない。1つの舞台作品になれば良いと思っています」
京都府出身。早稲田大学卒業後、1983~2002年、遊◉機械/全自動シアター主宰。 劇団活動中よりその演出力が認められ、多くの演出作品を手がける。14年4月、KAAT神奈川芸術劇場アーティスティック・スーパーバイザー(芸術参与)。16年4月、同劇場芸術監督に就任。12年演出のまつもと市民オペラ「魔笛」にて第10回佐川吉男音楽賞受賞。
Memory of Zero
メモリー・オブ・ゼロ
3月9日(土) 18:00
3月10日(日) 15:00
神奈川県民ホール大ホール
音楽:一柳慧
構成・演出:白井晃
振付:遠藤康行
指揮:板倉康明
演奏:東京シンフォニエッタ
ダンス:小池ミモザ、鳥居かほり
高岸直樹、引間文佳
遠藤康行、他
■問い合わせ:チケットかながわ 電話 0570-015-415