指揮者を務めるデア・リング東京オーケストラ
第8弾のCD、ブルックナーの7番をリリース
「オケのメンバーの支持がないとできません」
普通のオーケストラは半月形に配置される。ステージから見て指揮者の左脇にコンサートマスターがいて、背後に第1ヴァイオリン奏者が控える。指揮者を囲むようにチェロ、ヴィオラがいて、その後ろに管楽器。ところが、デア・リング東京オーケストラは全く違う。CDのジャケット写真を見れば一目瞭然である。指揮者は最前列の真ん中にいるが、配置は四角形で、一番前の列は全員がチェロ。後ろの奏者は立って演奏している。
「レコード会社で働いて、さまざまな指揮者とオーケストラの録音現場に立ち会いました。レコードを聴きながら眼前にオーケストラが並ぶように、どこにどの奏者がいるかが分かるように録音することが一つの理想となっていました。これは録音芸術としてはすごいのですが、ずっと疑問に思っていたのです」
2013年に音大を卒業した奏者とともにデア・リング東京オーケストラを創立、昨年のメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」とベートーヴェンの交響曲第7番まで7枚のCDをリリースしてきた。この間、オーケストラの配置はさまざまに試みてきた。半月形に並ばない、楽器ごとに固まらない、ことは一貫している。
「コンサートマスターや首席奏者は置かず、弓使いのボウイングは自由。ブルックナーでは全員前向きで立って演奏しました。私は指揮者ではあるが、楽器の入りは指示しないし、時には振ることすら止める。奏者各自が空間に向き合い、全体の流れと自分の役割を耳で把握しながら自発的に演奏して欲しいからです」
録音オーケストラとして活動を始めたが、昨年9月4日に第2回演奏会を行った。そのプログラムがシューベルト「未完成」とCDになったブルックナーの交響曲第7番。ちなみにこの日はブルックナーの195回目の誕生日で、高校2年のときに聴いたクーベリック指揮バイエルン放送響の「未完成」が西脇氏の原点だという。弊誌の公演レビューで音楽評論家の鈴木淳史氏は「個々の演奏家たちによる巨大な室内楽的なアンサンブルの有機性がすばらしい」と書いた。
「ブルックナーは7番で世界的に認められました。ブルックナーはワーグナーを尊敬しており、作曲途中でワーグナーが亡くなると、第2楽章はワーグナーの『葬送音楽』になりました。ブルックナーの7番は私にとっての到達点ですが、いずれワーグナーをやってみたい。私はいつでも辞める覚悟を持っています。しかし、録音の打ち上げにほとんどのメンバーが参加しました。メンバーの支持がなければ続けることはできません」
1948年、名古屋市生まれ。4歳より木琴を習い、15歳からチェロを始める。慶応義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラにチェロで在籍。1971年、日本フォノグラムに入社。2001年、福井末憲とともにエヌ・アンド・エフ社を創立。ミッシェル・コルボの講習会で指揮と発声法の指導を受ける。13年、デア・リング東京オーケストラを創立。自ら録音プロデューサーと指揮者を兼ねる。
■CD(写真)
ブルックナー:交響曲第7番(ハース版)
デア・リング東京オーケストラ
指揮:西脇義訓
録音:2019年9月4、5日
東京オペラシティコンサートホール
(N&F)NF-65809 3300円(SACDハイブリッド)