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vol.151 ヴァイオリン 千住真理子

千住真理子がデビュー50周年

巨匠の演奏の「手のしわの音」自分も目標

植村遼平◎本誌記者

ヴァイオリニスト 篠崎史紀
記者会見で笑顔をみせる千住真理子

 ヴァイオリニストの千住真理子が2025年にデビュー50周年を迎えた。24年11月20日には都内で記者会見が開かれ、12歳でのデビューからの軌跡を振り返った。12月にはいつも共にあったと語るイザイの無伴奏ソナタを熱演した。

厳しいレッスン、苦悩の日々

 ヴァイオリンを始めたのは2歳3か月。兄の千住博、明を追いかける形で手ほどきを受けるように。そして1975年、12歳のときに第1回「若い芽のコンサート」で、NHK交響楽団と共演してデビューを飾る。「本番のスポットライトはこんなに明るいのか、という記憶が未だにあります。その時目を閉じて演奏した経験から、今でも舞台で目を閉じると落ち着いて弾けるんです」
 デビュー公演での共演を契機に江藤俊哉に師事。しかし、その指導はとても厳しく、レッスンのたびに腹痛や手足の震えに襲われたという。「当時は中学に入ったばかり。テストが悪いと学校の先生に呼び出され、勉強をすると練習ができず、江藤先生に怒鳴られ…。その両立ができず、シーソーゲームのような中学3年間でした」
 さらに、世間からの「天才少女」という評価も、次第にプレッシャーに変わってゆく。1日14時間練習しても、思うようにできない「天才」らしい演奏。20歳頃、全く楽器に触れない時期も経験した。そんな暗闇の中でも、決して自分から離れなかった作曲家が、バッハとイザイの2人だったという。「バッハはあまりに崇高で、当時の自分には手が届かなかったけれども、祈りたいから弾いていました。正反対に、イザイはすごく人間臭い音楽。悩み、苦しみ、悲しみ。演奏すると、自分の感情がそこに溶け込んでいくんです。イザイになら今の私は近寄っていける。そう思って、自分一人のためにイザイを弾くようになりました」

痛切な旋律 馥郁たる音色

 12月20日、東京・Hakuju Hallで50周年特別プレ企画として千住が披露したのが、まさにそのイザイだった。6曲の無伴奏ヴァイオリン・ソナタに、2017年に公開された未完のソナタを含めた全曲演奏会。前半は短調作品の第1、2、4番、後半は長調作品の第5、《未完》、第6、3番の順で演奏された。イザイの内省的で苦悶するような旋律を、千住は丹念かつ痛切に響かせてゆく。2002年以来の愛器、ストラディバリウス「デュランティ」から引き出される馥郁(ふくいく)たる音色。最後の第3番《バラード》では、静寂から躍動に至る展開を圧倒的な技巧で描き切り、公演を力強く結んだ。
 50周年記念公演を多数控える2025年。会見の最後では、千住は今後の目標をこう語っていた。「だんだんと手の皺(しわ)も多くなるけども、それが音になってくる。かつて巨匠の方の演奏会で、なぜか”皺の音”が聴こえて、胸が熱くなって涙が流れました。こんな音を出したい、それが私の夢です」


ここで聴く

千住家の軌跡

5月10日(土)16:00 東京オペラシティ コンサートホール

千住博、千住明、千住真理子、N響のメンバーによるアンサンブル、近藤サト(司会)
その他の公演:5/18 兵庫県立芸術文化センター、5/20 愛知県芸術劇場コンサートホール
[問い合わせ] ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212

メンデルスゾーン&チャイコフスキー&ツィゴイネルワイゼン

9月14日(日)サントリーホール

岩村力(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団
その他の公演: 9/21 ザ・シンフォニーホール(関西フィル)、9/29 札幌コンサートホールKitara(札幌交響楽団)

バッハ:無伴奏ソナタ&パルティータ全曲演奏会

12月6日(土)東京オペラシティ コンサートホール

その他の公演:11/22 京都コンサートホール