ヴィエニャフスキ・コンクール優勝を記念
「自分を映し出せるバッハが好きです」
2022年のヴィエニャフスキ国際音楽コンクール(ポーランド・ポズナニ)で優勝。ポーランドや日本の楽団と共演を重ね、7月に東京と大阪でリサイタルを開く。
ヴァイオリンとの出会いは4歳の時。「音楽は好きだったのですが、ヴァイオリンはたまたまのことです」。NHKの番組「夕方クィンテット」で人形がヴァイオリンを演奏する姿に惹かれた。そして、テレビからチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が流れてきた。2007年のチャイコフスキー国際音楽コンクールで神尾真由子が優勝したことを伝えるニュースだった。「この曲を弾けるようになりたい」と思った。
大阪・豊中市出身。東京音大付属高校1年の秋、コンクールの壁に直面し、同郷の神尾に指導を頼んだ。高校3年の東京音楽コンクール本選で弾いたのは、チャイコフスキーの協奏曲。神尾が聴きに来てくれていた。結果は、優勝。「やればできるじゃん」と師匠は称えてくれたという。
東京音大で学ぶ20歳。「楽譜はめっちゃ読みます。曲想は感じるままに弾く」。好きな作曲家はバッハを第1に挙げる。「ロマン派のような色がないので、自分を映し出せます」。今回はパルティータ第2番から《シャコンヌ》を弾く。「3つの部分からなります。現実と、現実から離れた部分と、再び現実に戻る最後。真ん中は、天国で天使のラッパも鳴るようだけれど、再び何からも逃げられない現実に戻る。『フランダースの犬』の最後で(主人公と老犬が)死んでいるのか、天使に連れていかれるのか分からないように、ふわふわ感がある。(短調だが同主調の長和音で終わる)ピカルディ終止の解釈は奏者に委ねられています」
バッハが「神目線」だとすると、「ベートーヴェンは『自分軸』の感じられる作曲家。そのベートーヴェンより人間味を感じるのがモーツァルトです。音楽には自分より、他の人から感じた人間味が表れている。第21番のソナタはお母さんが亡くなった時に書かれた曲ですが、本当はもっと暗い気持ちなのに抑え目に『悲しいですよ』と言っているように感じます」
「とりわけ好き」というR・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタは前半で。「交響詩を書き始める直前に書かれた曲。大きな曲を書きたいという意欲がうかがわれます」
結びには、ヴィエニャフスキの《グノーの〈ファウスト〉の主題による華麗なる幻想曲》を置いた。「オペラからメロディが取られ、最後はお祭り騒ぎになる。昔から、節目で弾いてきた曲です。共演してきたポーランドのオーケストラはどの曲も無難に、というのとは違い、ヴィエニャフスキの協奏曲ならどの国の楽団よりうまい。アイデンティティを感じさせます」。そのポーランド人が喝采を送った前田ならではの表現が聴かれることだろう。
ヴィエニャフスキ・コンクール優勝後、ブラジル、台湾、フランス、ドイツなど各地から招かれてきた。「どこもかしこも印象的。台湾には2回行きました。チャイコフスキーの協奏曲やヴィエニャフスキの協奏曲第2番を弾いて熱い反応がありました。さまざまな歴史を背負い、しなやかな印象のあるポーランドにとりわけ惹かれています」
2022年第16回ヘンリク・ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールで優勝。ヴィエニャフスキ・コンチェルト賞、カプリス賞、ソナタ賞、ベートーヴェン・ブラームス作品賞の4つの特別賞も受賞した。02年大阪府生まれ。4歳よりヴァイオリンを始める。東京音大付属高校を経て、東京音大に特別特待奨学生として在学し、小栗まち絵、原田幸一郎、神尾真由子に師事。19年日本音楽コンクール第2 位及び岩谷賞(聴衆賞)、20年東京音楽コンクール弦楽部門第1位及び聴衆賞。11歳で関西フィルと共演し、大阪フィル、東響、日本フィルなどと共演。今年はおよそ20カ国、60地域での演奏会を予定している。使用楽器は、日本音楽財団貸与のストラディヴァリウス「ヨアヒム」。
前田妃奈 ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール
優勝記念リサイタル
7月27日 (木) 19:00 紀尾井ホール
共演のピアノ:グレッグ・スクロビンスキ
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第21番、R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ、J.S.バッハ:《シャコンヌ》無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番、マスネ:タイスの瞑想曲、ヴィエニャフスキ:《グノーの〈ファウスト〉の主題による華麗なる幻想曲》
■問い合わせ:AMATI TEL:03-3560-3010
7月28日 (金) 19:00 住友生命いずみホール
同プログラム
■問い合わせ:ABCチケットインフォメーション TEL:06-6453-6000