©Yuji Hori
9月にデビュー20周年記念コンサート
モーツァルトのモテットやオペラ・アリア
「分岐点に思い出深い曲を集めました」
今年、日韓交流オペラ「リゴレット」でデビューして20周年を迎える。「20周年記念公演」と銘打ったコンサートは、オーケストラをバックにオペラ・アリアを中心にプログラムを組んだが、チラシの筆頭にはモーツァルトの宗教曲モテット「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」が記されている。
「20年間は思えば、あっという間でした。おかげさまでいろいろな公演に出させていただいて充実していたと思います。モテットは小澤征爾さんの指揮、N響や日本のオーケストラのほとんどで歌っています。今年はオノフリさんの弾き振りで歌い、200回ほど歌っていますが、今まで気がつかなかった解釈を発見しました」
活動はオペラとともに宗教曲が柱になっている。東京芸大3年のとき、グスタフ・クーンが教えるサントリーホールのオペラ・アカデミーで学んだ。その際にクーンからモーツァルト、バッハ、ヘンデルを歌わなくてどうするんだ、と声の特質を指摘されたという。
「ありがたかったです。分からなくて重いものを歌っていました。日本ではりっぱに張り上げるような声が評価されると思っていたのです。しかし、自分の声に合っていないものを歌うと、のどが壊れてしまいます。私の声は、どう頑張ってもドラマチックな声ではありません」
©Yuji Hori
ミラノとミュンヘンに留学した。仕事のオファーは宗教曲が多かったという。飛躍のきっかけとなったのは1998年、ドミンゴが主宰するオペラコンクール「オペラリア」での入賞。ワシントン・ナショナル・オペラへのデビューのきっかけとなった。
プログラムには、ヘンデルのバロック・オペラ「リナルド」、ドニゼッティのベルカント・オペラ「シャモニーのリンダ」、イタリアのロマン派を代表するヴェルディの「リゴレット」や「椿姫」など、時代を追った作品が並んでいる。
「分岐点に思い出深い曲を集めました。ヘンデルはバッハ・コレギウム・ジャパンとエジンバラで歌いました。本場で不安だったのですが、鈴木雅明さんから、森さんの歌はヘンデルの様式観からはずれないので思いきってやっていいよ、と言われました。ドニゼッティは私がキャリアを築いた曲です。コンクールや入学試験で必ず歌いました。自分らしさを出せる曲です」
11月23、25日にはモンテヴェルディの歌劇「ポッペアの戴冠」に出演する。
「人をびっくりさせるような曲より、ふと聴いたときにステキだなと思ってもらえる歌を歌うような歌手になりたいと思ってきて、ここにたどり着けました。まだ歌っているの、と言われるくらい健康で末永く歌っていきたい」
東京芸術大学、同大学院、文化庁オペラ研修所修了。ミラノとミュンヘンに留学。プラシド・ドミンゴ世界オペラコンクール等、内外のコンクールに上位入賞。ワシントン・ナショナル・オペラ「後宮からの逃走」でアメリカ・デビュー。ドレスデン州立歌劇場「ばらの騎士」、トリノ王立歌劇場「ラ・ボエーム」などでフリットリやアルヴァレスと共演。NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」メインテーマを歌う。文部科学省主催「The Land of the Rising Sun」(宮本亜門演出)に出演。出光音楽賞、ホテルオークラ賞。