音楽監督を務める神戸市室内管弦楽団
モーツァルトからシュニトケ、プロコフィエフまで
仕掛け満載のプロで定期と東京特別演奏会
指揮とバロック・チェロの両輪で活躍する鈴木秀美。指揮者としては神戸市室内管弦楽団音楽監督、山形交響楽団首席客演指揮者のポストを持つ。「神戸が年4回、山形は年に1、2回といったところです」と話すが、充実の演奏への評価は高い。東京では昨年4月、パシフィックフィルハーモニア東京の定期演奏会で、得意のハイドンから交響曲第103番《太鼓連打》と、ベートーヴェンの交響曲第3番《英雄》を指揮し、強い存在感を示した。
欧州でブリュッヘン指揮「18世紀オーケストラ」や「ラ・プティット・バンド」の首席チェロ奏者を長年務めた。ガット弦によるバロック・チェロの演奏者として、独自の視点を持つ。「プロコフィエフも、バルトークも、ストラヴィンスキーも生きていたのはガット弦の世界。スチール弦が広まるのは1950年代後半以降です。そもそもモーツァルト、ブラームス、シューマンといった作曲家がどういう音を聴き、音楽を考えたかという原点に立ち返るなら、ガットしかないというのが私の考えです」
古楽への先入観には、強く反論する。「弱々しい懐古趣味だと言われるなら、まったく違う。菜食主義のようだというのも思い込み。《春の祭典》にしても、ストラヴィンスキーはガット弦だからこそ書けた音楽だと私は思います。バルトークもガットの世界です」。一方で、こちこちの原理主義者ではない。「弦の選択は個人的なもの」と言い、神戸市室内管弦楽団では、モダンの弦や奏法が交じり合っているのをむしろ美点とみている。
神戸市室内管の2月定期(2月11日=土=15:00、神戸文化ホール)と東京特別演奏会(2月13日=月=19:00、紀尾井ホール)では、プロコフィエフの交響曲第1番《古典》を取り上げる。「ストラヴィンスキーの《火の鳥》の少し前の作品です。古典作品からアイデアを得ながら、雰囲気はプロコフィエフ。その人の音楽になっている。そもそも古典派といっても、プロコフィエフが聴き知っていた古典派であって今の理解とは違う。音楽を通じてプロコフィエフの生きた時代へ行く楽しみがあります」
プロコフィエフの前にはシュニトケの《モーツァルト・ア・ラ・ハイドン》を置いた。「古典派のメロディーの断片がちらちら、表現されている。構造のおもしろさがあります」。ハイドンの《告別》を下敷きに、ステージでの動きや照明にも指定があるといい、見る楽しみも用意する。
前半では、モーツァルトの2曲を演奏する。弾きだしは、セレナーデ第13番《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》。「BGMはともかく、ステージで演奏される《アイネ・クライネ…》を聴いた人は意外に少ない」といい、新鮮さをアピールする。この曲にはチェロ奏者として合奏に参加する。モーツァルトのセレナーデ第12番を組み合わせ、こちらも《ナハトムジーク》。プログラムに趣向を凝らしている。
モンテヴェルディが一般的なレパートリーだった「18世紀オーケストラ」では、モーツァルトは〝新しい〟音楽だった。「時代をさかのぼったり、下ったり。散歩の仕方で景色は違います」と言う。さまざまな時代の音楽の旅。聴衆との分かちあいを願っている。
神戸生まれ。「18世紀オーケストラ」「ラ・プティット・バンド」 等のメンバー及び首席奏者として活躍。兄の鈴木雅明の主宰する「バッハ・コレギウム・ ジャパン」では創立から2014年まで首席チェロ奏者を務めた。01年に古典派を専門とするオーケストラ・リベラ・クラシカを結成。指揮者としての活動が増え、21年から神戸市室内管弦楽団音楽監督。