トッパンホールのエスポワールシリーズに登場
ベルリン芸術大学に学ぶ新鋭
「日本で楽譜を読んでいるだけでは分からない」
4月に22歳になったばかりの新鋭。若手音楽家の育成を目指すエスポワールシリーズのアーティストに選ばれた。東京芸術大学に入学し1年半で、ベルリン芸術大学に留学。まだ在学中だ。
「早く留学したいと思っていました。作曲を学びたい思いから最初はフランスを考えていたのですが、ピアノを勉強するならドイツの方がいいと思い直しました。(私が師事している)伊藤恵先生が同門だったライナー・ベッカー先生についています。CDで聴いて絶対この人に習いたいと思いました。ドイツ人ぽいというのでしょうか、有無を言わせないようなベートーヴェン。それは言葉では教えてもらえないだろうから、彼の近くにいきたい、悩んでいる時間はない、と思ったのです」
©大窪道治
実はベッカー先生は、いまピアノが弾けない。体を壊し、車いす生活だ。
「先生は音を出してはくれません。どういう音を出すのかとにかく自分で考えなくてはならない。真面目に楽譜を読んで考えに考えて弾くのですが、そうじゃない、と言われたりする。その理由を尋ねても、そんなの理由はない、と返ってきます。先生は本能的に分かっているので、楽譜にある作曲家の指示を無視することもあります。楽譜から何を読み取るか、という伝統とともに、ときには楽譜の指示を無視するのも伝統なのですね。楽譜を信用しすぎない。ドイツに行かなかったら分からなかったことです。先生のレッスンは刺激的です」
ベルリンで生活して、誤りを認めないなどドイツ人の理不尽さも体験した。「音楽はその人、人間と密接にかかわっています。ドイツ人の作品にドイツ人の精神や考え方が関係してくるのは当然で、日本で楽譜を読んでいるだけでは実感できなかった」
エスポワールシリーズの第1回は10月。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13、14番を軸にシューマン、バルトーク、そして現代のホリガーというプログラム。
「ベートーヴェンの内向的な2つのソナタを基調に、プログラム全体から関連性や影響が感じられる作品を組み合わせました。今回弾くベートーヴェンには、彼のもやもやとした人間らしさが出ていて魅力的です。ベートーヴェンの精神を引き継いだシューマン、バルトーク、3人の影響を受けているホリガーと、時間を超えて手渡されてきたものをひとつのプログラムに表現したいと思っています」
第2回演奏会は2014年。ヴァイオリンとのデュオ、チェロを加えたトリオの演奏を予定。第3回は2015年で、小菅優(ピアノ)と共演する。「シリーズを通して厳しく自分に挑戦し、納得いく成果をつかみたいと思います」
1991年、愛知県生まれ。東京芸術大学に入学し、ベルリン芸術大学に留学。現在、在学中。ライナー・ベッカー、伊藤恵に師事。2005年、東京音楽コンクール第1位。06年、浜松国際ピアノコンクール第3位。08年、シドニー国際ピアノコンクール第5位。05年、リサイタル・デビュー。11年、ソロ・デビューCD「遙かなる恋人に寄す」をリリース。NHKFM「名曲リサイタル」に出演。トッパンホールでは11、13年のニューイヤーコンサートなどに出演している。
〈トッパンホール エスポワールシリーズ 10〉
北村朋幹(ピアノ)
Vol.1―ソロ
10月12日(土)17:00
シューマン:森の情景
ホリガー:パルティータより第3曲「舟歌」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番「月光」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第13番
バルトーク:野外にて
Vol.2―デュオ/トリオ
2014年10月8日(水)19:00
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第7番
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲「幽霊」、他
ダニエル・ゼペック(ヴァイオリン)、他
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