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vol.52 フォルテピアノ ロナルド・ブラウティハム

フォルテピアノ ロナルド・ブラウティハム

モーツァルトのピアノ協奏曲全集を録音
「モダン・ピアノで全てを演奏する人は
1本のクラブでゴルフをするようなものです」

 フォルテピアノによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を初めてリリース、さらにモーツァルトのピアノ協奏曲全曲を録音するなど、旺盛な活動を続けている。しかし、始まりは、モダン・ピアノ。巨匠ルドルフ・ゼルキンに師事した。
 「モーツァルトを演奏していて、どうも に落ちないところがありました。それが何か分からなかったのです。もちろんモーツァルトの曲が悪いわけではありません。フォルテピアノ製作者のマクナルティがアムステルダムに住んでいました。彼の家に行き、小さなフォルテピアノを弾かせてもらい、これだ、と開眼したのです」
 ブラウティハムは、マクナルティにモーツァルトが愛用したヴァルターのフォルテピアノを再現したレプリカを作ってもらった。
 「モーツァルトをモダンのピアノで弾くと、非常に神経を使います。音が大きくなりすぎないようにデリケートに弾く必要があります。モーツァルトというと天使のような男の子というイメージがありますが、悪さもする人だったのです。これはモダンのピアノの演奏も影響しています。モダンのピアノでは、ピアノを鳴らしてモーツァルトの興奮を再現できません。音を大きくしたらまるでラフマニノフのようになってしまいます。しかし、フォルテピアノでなら、もっとワイルドに冒険的に弾くことができます」
 バーゼル音楽院教授を務め、8人の学生を教えている。ただし、学校で教えるのはモダンのピアノだ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第1~4番

 「モダンのピアノを教えていますが、生徒には歴史的な背景を理解するように教えています。彼らにはモダン・ピアノのほかに可能性があることを教えたいのです。バッハをピアノで弾くのは妥協の連続です。もともとハープシコードのために書かれているのですから、ハープシコードで弾いた響きが一番いいと思います。現代のオーケストラも、当時の演奏様式を理解した指揮者を迎えることが多くなっています。今ではナチュラルホルンや木製のフルートを使うなどの取り組みが行われています」
 現在、メンデルスゾーンのピアノ協奏曲の録音が始まっている。ブラウティハムは作曲家によってフォルテピアノの種類も弾き分けている。
 「ゴルフにたとえれば分かりやすいかも知れません。モダン・ピアノだけですべての作曲家を演奏する人は、1本のクラブでゴルフをするようなものです。しかし、キャリーバッグの中にはウッドやアイアンなど違うクラブが入っているのです」

Ronald Brautigam

1954 年アムステルダム生まれ。ルドルフ・ゼルキンらに師事し、現代のピアノを演奏する一方、フォルテピアノにも力を注いできた。共演したオーケストラは、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、ロンドン・フィル、BBC響、18世紀オーケストラなど、指揮者はシャイー、デュトワ、ハイティンク、ブリュッヘン、ホグウッド、ヤノフスキ、ノリントンら。95年から、BIS社で録音を始め、60以上のタイトルをリリース。ピアノフォルテによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を初めてリリースした演奏者である。現在、バーゼル音楽院教授。

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■CD
モーツァルト:ピアノ協奏曲第1~4番(写真)
(キングインターナショナル)KKC-5690
モーツァルト:ピアノ協奏曲第5、6番 3つのピアノ協奏曲
(キングインターナショナル)KKC-5689
モーツァルト:ピアノ協奏曲第8、11、13番
(キングインターナショナル)KKC-5688
モーツァルト:ピアノ協奏曲第15、16番
(キングインターナショナル)KKC-5687
いずれも、SACDハイブリッド
ロナルド・ブラウティハム(フォルテピアノ)
マイケル・アレクサンダー・ウィレンス(指揮)
ケルン・アカデミー