岡本稔◎音楽評論家
上岡敏之(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
(オクタヴィア)OVCL-00621 3456円
後期ロマン派的な音楽世界を適度の共感を持って表現
上岡敏之が新日本フィルの音楽に就任した直後の2016年9月に収録されたライヴ。リヒャルト・シュトラウスの後期ロマン的な音楽世界を適度の共感をもって表現する上岡のアプローチは大きな説得力を持っている。随所で感じさせる感性の 閃 きはこの指揮者ならでは。新日本フィルは緻密に書かれたオーケストレーションの魅力を明らかにし、近年の好調ぶりを如実に示している。上岡とこのオーケストラのさらなる展開に期待を抱かせる一枚だ。
カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(ソニー)SICC-3042 2808円
豊かな感受性を感じさせるブニアティシヴィリのピアノ
ジョージア(旧グルジア)出身の若手ブニアティシヴィリの初のコンチェルト・アルバム。豊かな感受性を感じさせるソロは極めて魅力的。第2番では、過度にロマン的に傾くこととなく、 明晰 さを保ちながら作品の魅力を明らかにしていく。緩徐楽章の詩情にあふれた歌にも心 惹 かれる。第3番も同様のアプローチだが、作品のスケールがより大きいだけにより振幅の大きな演奏を展開。パーヴォ・ヤルヴィの指揮するチェコ・フィルが的確なバックをつけている。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
御喜美江(アコーディオン)
(キングインターナショナル)KKC-4099 オープン価格(SACDハイブリッド)
5年かけて実現したバッハの録音は愉悦の表情にあふれる
アコーディオンの 御喜 美江が構想から5年という歳月をかけて、ついに実現にこぎつけたバッハの「平均律クラヴィーア曲集」の抜粋の録音。自由で自然で伸びやかな呼吸をするように音を紡いでいく。ハノーファー音楽大学時代はピアノ科に在籍していた御喜。この作品とは40年もの長きにわたる勉強期間を誇る。ライナーノーツによると途中で何度も挫折したというが、完成した録音は愉悦の表情にあふれ、バッハの偉大さを教えてくれる。
石戸谷結子◎音楽評論家
●シューベルト:「糸を紡ぐグレートヒェン」「岩上の牧人」、ほか全16曲
ナタリー・デセイ(ソプラノ)
フィリップ・カサール(ピアノ)
トーマス・サヴィ(クラリネット)
(ソニー)SICC30424 3000円 ※Blu-spec CD2
来日したばかりの人気ソプラノがシューベルトのリートに挑戦
4月に来日してリサイタルを開いたデセイ。2013年にオペラの舞台を引退した彼女は、フランス歌曲やシャンソンなどのほか、シューベルトのリートにも意欲を燃やしている。このアルバムは「愛の使い」「魔王」「春に」などの名曲のほか、自分の声に合った16曲を選んでいる。歌い方はまさにデセイならではの、個性的な解釈と深い表現力が特徴。詩のドラマに分け入って、新たな物語の世界を語りかける。クラリネット伴奏による「岩上の牧人」も聴きもの。
●シューベルト:歌曲集「美しき水車小屋の娘」「冬の旅」「白鳥の歌」
ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト)
インゲル・セデルグレン(ピアノ)
(ワーナー)WPCS13650 4860円 ※3CD
深い響きの名コントラルトによる3大歌曲集がセットで発売
今月は女声によるシューベルト歌曲の競演になった。3大歌曲はそれぞれ2004年「冬の旅」、08年「美しき水車小屋の娘」、05年「白鳥の歌」が録音され、今回1つにまとめて発売された。シュトゥッツマンは深い響きのコントラルトの声を生かし、静かに自然体で歌を紡いでいく。女声が歌う違和感が全くなく、深い解釈とまろやかな美声に身をゆだねると、シューベルトの人間観が見えてくる。数曲だがデセイが同じ曲を歌っているので、聴き比べると興味深い。